
三流営業マンの主人公タダシ(モデルは著者)が、Amwayのミーティングで、ダイレクトディストリビュータ(DD)から授かった知識「安心感と信頼」を武器に、道を切り開き、医療現場から頼られる営業マンに成長していく物語。37回シリーズ。

大学病院の循環器内科は、いつも慌ただしい。
心臓カテーテル治療は緊急対応も多く、医師たちは常に走っているようだった。
タダシは、その廊下を今日もゆっくり歩いていた。
歩くスピードを速めると、なぜか自分が場違いな気がしてしまう。
(顔を売れ、か)
社長の言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。
- 「医療機器を売る前に、お前という人間を売れ」
- 「儲けるとは、信者をつくることだ」
その言葉は確かに胸に響いた。
でも、どうやって「顔を売る」のかが分からなかった。
医局の前で深呼吸をして、ノックをする。
「失礼します。タダシです」
医師たちはちらっと見るが、すぐにカルテに戻る。
昨日と同じ反応。
一昨日と同じ反応。
(俺、ほんまに誰にも覚えられてないんじゃないか)
名刺を置いて部屋を出ると、胸の奥がズキッと痛んだ。
- 成果ゼロ。
- 話しかけてもらえない。
- 名前を覚えてもらえない。
(なんで、こんなにうまくいかんのんじゃろ)
そんなとき、医局秘書の女性が声をかけてくれた。
「あ、タダシさん。来週の懇親会、参加できますか?」
タダシは思わず声が大きくなった。
「はいっ!もちろんです!」
秘書さんは少し笑った。
「よかった。若手の先生たち、タダシさんのこと気に入ってるみたいですよ」
タダシは驚いた。
(えっ?俺のこと、気に入っとる?)
懇親会は会社が費用を出してくれる。
営業マンが医師と仲良くなるための投資だ。
タダシは懇親会が好きだった。
医局の空気を感じられるし、医師たちの素顔が見える。
何より、病院の外では少しだけ話しやすくなる。
その日の懇親会でも、若手医師が声をかけてくれた。
「タダシさん、広島出身なんですよね?
あの方言、なんか落ち着くんですよ」
タダシは思わず笑った。
「ほんとですか? 苦情ばっかり言われとったんですけど」
「いや、逆に親しみやすいですよ。
医局秘書さんも【タダシさんは話しやすい】って言ってましたよ」
胸の奥がじんわりと温かくなった。
(俺の方言悪いことばっかりじゃなかったんじゃ)
懇親会の終盤、教授の退官パーティの話題が出た。
「タダシさん、カメラ係お願いできます?」
「もちろんです!」
その日から、タダシは医局のイベントでカメラ係として重宝されるようになった。
若手医師や秘書さんから声をかけられることも増えた。
(顔を売るって、こういうことなんじゃろうか)
しかし——
病院での営業は依然として成果ゼロだった。
懇親会では笑顔で話せるのに、
医局では誰も話してくれない。
(なんで、こんなに差があるんじゃろ)
車に戻り、ハンドルに額をつけた。
「俺、何が悪いんじゃろうか」
- 懇親会では距離が縮まる。
- 秘書さんは優しい。
- 若手医師は親しみを持ってくれている。
なのに、病院では誰も話してくれない。
そのギャップが、タダシを苦しめていた。
(俺は、人間関係が苦手なんじゃろうか)
その自覚が、胸に重くのしかかった。
この日、タダシはまだ知らない。
この苦しみの理由が、後にAmway教育で学ぶ
「人は心で動く」
という原則につながっていくことを。
物語は、静かに深まり始めていた。






