アイコが働き始めた雑貨店「コトリ堂」は、小さくて可愛い店だが、スタッフの個性が強すぎた。店長・サエコ(45)は、いつもテンションが高くて、声が大きい。「アイコちゃん、今日も可愛いねぇ! その笑顔、店の売上3%上がるよ!」
アイコ、新しい仲間と出会う
(3%って具体的)
アルバイトのユウト(19)は、やたらと落ち着いていて、アイコより人生経験がありそうな雰囲気。
「アイコさん、棚の上の箱は僕がやります。落ちてくると危ないので」
(ヒサシの棚事件、もうバレてる?)
そして常連客のマダム・フミエ(68)。毎日来る。毎日しゃべる。毎日、買わない。
「あなた、最近働き始めたの?あら、いいわねぇ。人生はね、動いた人から幸せになるのよ」
(買わないのに、名言だけ置いていく)
アイコは思った。
(この店、ヒサシがいたら絶対ツッコんでる)
ある日、アイコは接客でミスをした。
「こちら、ラッピングお願いします」
「はい!お任せください!」
しかし、アイコはラッピング用の紙ではなく、商品用の包装紙で包んでしまった。結果、プレゼントが店のロゴだらけのゴツい箱になった。お客さんは苦笑い。
「逆に目立っていいかもね」
店長サエコは爆笑した。
「アイコちゃん最高!こういうの、うちの店の名物にしよ!」
(いや、名物にしないで!)
でも、ユウトが優しくフォローした。
「大丈夫ですよ。僕も最初は値札つけたまま渡す事件やりましたから」
(この店、事件多いな)
ミスをして落ち込むアイコに、マダム・フミエが近づいてきた。
「あなた、泣きそうな顔してるわね」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫じゃない顔よ。でもね、泣きたい時は泣きなさい。泣いたら、プリン食べなさい」
アイコは驚いた。
「なんでプリン?」
「女はね、プリンで立ち直るのよ」
(ヒサシの生まれ変わり?)
フミエは続けた。
「あなた、誰かを失った顔をしてる。でもね、失った人は、あなたが笑うと喜ぶのよ」
アイコの胸がじんわり温かくなった。
(この人、ただの常連じゃない)
仕事終わり、スタッフルームでサエコが言った。
「アイコちゃん、今日も頑張ったね!ミスしてもいいのよ。うちの店、全員ミスしてるから!」
ユウトも笑った。
「僕なんて、昨日レジ閉め忘れましたし」
(それはダメでしょ)
でも、アイコは気づいた。
(この店なんか、ヒサシの家みたい)
ドタバタで、ちょっとポンコツで、でも温かい。
家に帰る途中、アイコはふと空を見上げた。
「ヒサシ、今日ね、私、ミスしたけど笑えたよ。あなたがいたら絶対ツッコんでたよね」
風がふわっと吹いた。まるでヒサシが「まぁ、なんとかなるって」と言っているようだった。
アイコは微笑んだ。家に帰って冷蔵庫を開けると、プリンが2つ。
「非常用は、今日はいらないかな」
アイコは1つだけ取り出して、ゆっくり食べた。
(新しい仲間ができた。新しい日常が始まった。ヒサシ、私ちゃんと前に進めてるよ)
その夜、アイコは久しぶりにぐっすり眠れた。
新企画
ある日、店長サエコが言った。
「アイコちゃん、来月の手作りフェアで、何か出してみない?」
「えっ、私がですか?」
「そうよ!アイコちゃん、センスいいし、お客さんにも人気あるし!」
ユウトも言った。
「アイコさんのラッピング、あれはあれで味がありますし」
「それ褒めてるの?」
でも、アイコは思った。(やってみようかな)ヒサシなら絶対こう言う。『やれやれ!失敗したら俺のせいにしろ!』
(いや、天国から責任取れないでしょ)そうツッコミながら、アイコは久しぶりにワクワクを感じた。アイコが選んだのは、小さなビーズアクセサリー。最初は不器用で、ビーズを床にばらまいたり、糸を絡ませたり。
「ヒサシ、これ絶対笑ってるでしょ」
でも、作っていると不思議と楽しい。
(あ、これ可愛いかも)
(この色、ヒサシが好きだったな)
(この形、あの人のネクタイに似てる)
気づけば、ヒサシとの思い出がアクセサリーの中に自然と溶け込んでいた。作業中、常連のフミエがやってきた。
「あなた、最近いい顔してるわね」
「そうですか?」
「ええ。人はね、何かを作ると前に進めるのよ。料理でも、アクセサリーでも、プリンでもね」
「プリンは作らないです」
「じゃあ食べなさい」
(この人、ヒサシの親戚?)
フミエは続けた。
「亡くした人のことを思いながら作ると、その人が作品の中に住むのよ」
アイコは胸が温かくなった。(ヒサシ、私のアクセサリーの中に住むの?狭くない?)
フェア当日
アイコのアクセサリーは、なんと、予想以上に売れた。
「これ可愛い!」「色の組み合わせが素敵」「なんか優しい雰囲気がするね」
サエコは大喜び。
「アイコちゃん!これ、ブランド化しようよ!アイコのプリン工房とか!」
「プリン関係ないですよね?」
ユウトが冷静に言った。
「プリンはやめた方がいいと思います」
(この店、やっぱり好きだな)
フェアが終わった帰り道。夕焼けがきれいだった。アイコは空に向かって言った。
「ヒサシ、今日ね、私、すごく楽しかったよ。あなたがいなくても、こんな日が来るんだね」
風がふわっと吹いた。まるでヒサシが『だろ?俺の嫁は最強なんだよ』と言っているようだった。アイコは微笑んだ。
「うん。でもね、あなたがいたから最強なんだよ」そして、アイコの人生はまたひとつ、静かに前へ動き出した。


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