
三流営業マンの主人公タダシ(モデルは著者)が、Amwayのミーティングで、ダイレクトディストリビュータ(DD)から授かった知識「安心感と信頼」を武器に、道を切り開き、医療現場から頼られる営業マンに成長していく物語。37回シリーズ。

タダシが
医療機器メーカーに入社したのは、
35歳の春だった。
北区のオフィスは
こぢんまりしていて、
社員は20名ほど。
医療機器メーカーと聞くと
大企業を想像する人も多いが、
この会社は少数精鋭というより、
少数必死という雰囲気だった。
扱っているのは
カテーテル治療のデバイス。
命に関わる製品だから、
営業マンでも商品知識は
徹底的に叩き込まれる。
「まずは一年。
営業しなくていいから、
勉強に集中してくれ」
そう言われたとき、
タダシは心の底からホッとした。
(営業せんでええんか?
助かった)
広島の方言が心の中で漏れる。
営業が苦手なタダシにとって、
これは救いの言葉だった。
その一年は、
毎日が勉強だった。
- カテーテルの構造、
- 血管の走行、
- 治療の流れ、
- 合併症の種類。
- 医師がどんな場面でどのデバイスを使うのか。
覚えることは山ほどあった。
でも、営業しなくていいという
安心感があった。
- 誰にも断られない。
- 誰にも冷たくされない。
- 誰にも無視されない。
(営業マンなのに
営業せんでええって、
なんか変な感じじゃけど)
安心しながらも、
どこか物足りなさがあった。
そんな中、
タダシが一番うれしかったのは
医局説明会の手伝いだった。
医師向けの勉強会。
会社の製品を紹介する場だが、
タダシはまだ説明はできない。
だから、会場準備や
資料の配布を担当した。
それでも、
医局に入れるだけで
胸が高鳴った。
「タダシくん、
机並べるの手伝ってくれる?」
「はいっ!やります!」
返事が少し大きくなり、
医師がちらっとこちらを見る。
その視線だけで、
タダシはうれしかった。
(やっと、病院の中で
役に立てた気がする)
医局の空気は独特だ。
緊張感がありながら、
どこか人間味もある。
医師たちの会話は専門的で、
タダシには半分も理解できない。
それでも、
その場にいられるだけで
誇らしかった。
説明会が終わり、
医師が帰っていく。
タダシは机を片付けながら、
心の中でつぶやいた。
(いつか、
俺もこの場で説明できるように
なりたいのう)
その願いは、
まだ遠い未来の話だった。
でも、確かに
胸の奥に灯っていた。
会社に戻ると、
同い年の先輩・サトシが
声をかけてきた。
「説明会、どうだった?」
「めっちゃ楽しかったです。
準備だけじゃけど」
サトシは笑った。
「タダシは、
現場が好きなんだな。
その気持ち、
大事にしたほうがいいよ」
その言葉が、
タダシの胸に静かに響いた。
(現場が好き?そうかもしれん)
- 営業は苦手。
- 人と話すのも苦手。
- 方言が出て苦情を受けることもある。
でも、医療の現場は好きだった。
医師が患者を救う姿を見ていると、
自分もその一部になりたいと思えた。
その気持ちが、
タダシを少しずつ前に進めていく。
この一年は、
営業しなくていい安心の時期。
でも同時に、
タダシの心の奥で
何かが芽生え始めた時期でもあった。
この芽が、
後に大きな変化を生むことを、
タダシはまだ知らない。
物語は、静かに動き始めていた。






