古民家カフェ

古民家カフェ 全記事
古民家カフェ

「この家、カフェにしたら素敵かもね」それは、尾道の坂道を登りきった先にぽつんと佇む、築70年の古民家を見たときの、タマキの母・サチコのひとことだった。「え、カフェ?まさか俺が?」「そうよ。あんた、仕事辞めて暇なんだから、ちょっとくらい夢見たら?」母は悪気なく言う。

ゼロ円古民家

タマキは苦笑いしながら、古民家の軒先に座り込んだ。誰も住まなくなって久しいその家には、静かな時間と、どこか懐かしい匂いが漂っていた。

「尾道市 古民家」

スマホで検索すると、画面いっぱいに空き家の写真が並んだ。

「ゼロ円物って、ほんとにゼロ円なのか?」

タマキは眉をひそめながらも、興味津々でスクロールを続ける。宅配ドライバーを辞めて半年。
朝は母の「ゴミ出し行った?」で始まり、昼は妹の「また昼寝してたでしょ?」で終わる。家族のツッコミが日常になっていた。

「何か始めたいって気持ちはあるんだけどな」

でも、何を始めたらいいのか分からない。そんなとき、ゼロ円の古民家が目に留まった。※尾道のように細い歩道しかない山の上の住宅密集地には、今も多くの古民家が眠っています。

「カフェって、なんかいいな」

古民家の写真を見ながら、タマキはつぶやいた。

「カフェ? あんた、コーヒー淹れられるの?」

妹のミナがすかさず突っ込む。

「いや、インスタントなら」

「それ、カフェじゃなくて休憩所だよ」

家族会議(という名の夕食)では、カフェ案が話題に。父・マサルは「カレー出せばいいんじゃ」と言い、祖母・フミは「昔のレシピあるよ」と張り切る。気づけば、家族全員が勝手にメニューを考え始めていた。

「俺のカフェなのに」

タマキは思ったが、どこか嬉しかった。

「古民家って空っぽだな」

埃をかぶった畳を見ながら、タマキはつぶやいた。でも、空っぽだからこそ、何かを入れられる。何かを始められる。ゼロ円の古民家。ゼロからの出発。それは、タマキにとって自分を使ってみるための第一歩だった。

※実際の古民家は、自動車も入れない辺鄙なところにあって、家の中には昔の暮らしがたくさん残っています。その当時の生活を思い起こしながら、一つずつ捨てていくことから始まります。しかも、重機を使わず自分たちだけで。

「カフェって、誰かが来てくれる場所だよな」

そう思ったとき、タマキは少しだけ胸が熱くなった。

「名前、どうしよう」

「タマキカフェとか?」

「それ、ただの自己紹介じゃん」

家族の案は「坂の上のカフェ」「猫とカレー」「フミばあの台所」など、どれも一癖ある。

「まだ何も決まってないけど、名前があると夢が近づく気がするな」

そう言ったタマキに、母がぽつり。

「じゃあ、空っぽカフェはどう?」

「それ、営業妨害だよ」

笑いながら、タマキは古民家の縁側に腰を下ろした。夕焼けが、少しだけ未来を照らしていた。

※実際の縁側は腐っていたので、座ったのは縁側の下にある一段高くなった石でした。

売るって?

「売るって、なんだろう」

古民家の掃除をしながら、タマキは考えていた。ほうき片手に、畳のホコリを払いながら、ふと立ち止まる。

「カフェをやるなら、何かを売らなきゃいけない」

でも売るって言葉が、どうにも苦手だった。押しつけるみたいで、なんかイヤだ。

「俺、営業とか無理だし」

そうつぶやいた瞬間、背後から母・サチコの声が飛ぶ。

「タマキ! その畳、裏返してみて! カビ生えてるかも!」

「えっ、カビ!? 俺、カフェやるんだよ!? カビはダメだろ!」

掃除は、もはや戦いだった。祖母・フミは「昔の人はね、畳のカビは塩で取ったのよ」と言いながら、なぜか味噌を持ってきた。妹・ミナは「インスタ映えする掃除風景撮るから」と言って、ほうきを持たずにスマホを構えている。

「誰か、掃除してくれ…」

タマキは心の中で叫んだ。

※実際には、畳すべてを産業廃棄物で出してしまいました。そして、1階の台所をキッチン変えて土間はつぶしました。8畳間と6畳間は床に張り替えテーブルを置きました。

ふと、宅急便の仕事をしていた頃を思い出す。毎日、荷物を届けていた。それは売るじゃなくて届けるだった。誰かが誰かに送ったものを、ただ丁寧に渡していた。

「もしかして、売るって、届けることなのかも」

そう思ったとき、少しだけ気が楽になった。じゃあ、何を届けたいんだろう。コーヒー?それとも、まごころ?

「まごころとコーヒーのカフェ」

その言葉が、だんだん自分の中で馴染んできた。

「まごころって、静かでいいよな」

「静かすぎて、うちの家族には向いてないけどね」

ミナのツッコミは鋭い。メニューを考えるときも、売れるものじゃなくて伝えたいものを並べた。

※実際、純喫茶ではなくて、なんでも売るカフェスタイルにしています。夏はかき氷に冬はお汁粉、お土産も置いてあったりします。

まごころのミニレッスン、それに静かな時間(※ただし家族がいないときに限る)。

「これ、売れるのかな」

不安はあった。でも、これなら、伝えられると思えた。その夜、家族会議が再び開催された。父・マサルは

「コーヒーに焼きそばつけたらどうだ」

と言い出し、祖母・フミは「まごころより出前のほうが早い」と言い張る。

妹・ミナは、

「カフェの名前、カビとコーヒーにしようよ」

と爆笑していた。

「俺の夢、どこ行った」

タマキは頭を抱えながらも、どこか楽しかった。夢はまだ形になっていない。でも、家族と一緒なら、なんだか笑える。それだけで、少し前に進める気がした。

※本人の証言によると、家族に頼っていると必ず失敗したときに家族を言い訳にしてしまうので、決定権は自分で持つ、を徹底したそうです。

リノベーション

「売るって、伝えること」

伝えたいことがあるなら、きっと誰かが受け取ってくれる。そう信じて、タマキは古民家の改装に取りかかった。が、現実は甘くなかった。

「よし、まずは床を剥がすぞ!」

父・マサルが張り切ってインパクトドライバーを構える。

「お父さん、それ逆回転じゃない?」

「え? あ、ほんまじゃ。ネジ締めとるがな!」

工具の使い方もままならないまま、家族総出のリノベーションが始まった。祖母・フミは「昔の家はね、釘なんか使わんかった」と言いながら、金槌で柱を叩いて確認。

「この柱、まだ生きとるわ」

「生きてるって何!?」

妹・ミナは「壁紙は私に任せて!」と意気込んだものの、貼ったそばから空気が入り、まるでふくらし粉入りのホットケーキのようにボコボコに。

「これ、味は良さそうだけど見た目が」

「食べ物じゃないから!」

※実際には、尾道の坂の上まで登るのはとてもきつく、手伝ってくれるかもしれないを当てにしていると全く進まなくなるので、最後は自分でやり遂げる覚悟が必要、とのことでした。

「カウンターは、やっぱり木でしょ」

タマキは近所の材木屋で、古材を格安で譲ってもらった。

「この木、ちょっと反ってるけど味があるよな」

「それ、味じゃなくて傾きだよ」

水平器を置くと、六角形の鉛筆が転がっていった。

「まあ、斜めのカウンターってのも、個性ってことで」

「お客さんのコーヒー、全部こぼれるよ」

結局、近所の大工さん・ヨシダさんに泣きついて、手伝ってもらうことに。

「最初から呼べばよかったのに」

と言われ、タマキは苦笑い。

※大切な部分は、やはり素人では無理です。お金がかかってもしかたないので専門家に任せましょう。トイレとか汚水槽など、最初はよく知っている人に聞いたほうがいいです。

看板

「坂の上のカフェ・タマキ」

(※家族会議で決まった。多数決で負けた)

最初の一週間。誰も来なかった。

「まあ、そんなもんか」

そう思っていたけど、やっぱり寂しかった。古民家の中は静かすぎて、時計の音がやけに大きく聞こえる。コーヒーの香りだけが、空気に浮いていた。

「誰か来ないかな」

そう思って、外を見ても、誰も通らない。でも、ある日。店の前に、小さな花が咲いていた。昨日はなかったはずだ。

「誰かが植えたのかな」

それとも、風に運ばれてきたのか。どちらでもいい。なんだか、誰かが来てくれた気がした。

ポストの下には、チラシの束。なんだ??そう思ってみるとメモが挟まっていた。近所の人が「よかったら使って」と置いてくれたらしい。手紙もない。名前もない。でも、気持ちは伝わってきた。

「世間って、こういうことかもしれないな」

見えないけど、ちゃんと来てくれてる。応援してくれてる。お客さんが来ない日も、誰かが見てくれている。誰かが、そっと支えてくれている。それに気づいたとき、タマキは少しだけ泣きそうになった。でも泣かなかった。代わりに、コーヒーをもう一杯淹れた。

「だれかのコーヒー」

そう言って、カウンターにそっと置いた。誰も座っていない席に、湯気が立ちのぼった。

※現在では、土・日・休日・祭日・連休やイベントがあるときに注力しています。

はじめてのお客さん

「最近、誰かがブログに書いてくれたみたいですよ」

近所のパン屋さんの店主・カナさんが、焼きたてのメロンパンを手渡しながらそう言った。

「まごころカフェがあるって。うちにも聞きに来た人がいましたよ」

タマキは驚いた。宣伝らしいことは何もしていない。チラシも配っていない。SNSも苦手で、放置していた。

「え、俺のカフェのこと?」

「他に手話カフェってないでしょ、ここらへん」

カナさんは笑って帰っていった。タマキは、カウンターの奥でそっと湯を沸かした。

※ファイスブックとかインスタグラムとかは、とてもいい営業ツールになるのでぜひ日ごろからなじんでおきましょう。

その日の午後。店の前で、何かが動いた。

「お客さん?」

タマキはそっとのぞくと、帽子をかぶった女性が立っていた。年の頃は70代くらい。手には小さなメモ帳。

「こんにちは」

この女性は、ゆっくりと挨拶した。タマキは、少し緊張しながら手話で返す。

「いらっしゃいませ。コーヒー、いかがですか?」

女性は笑顔でうなずいた。そして、

「ブログを見て来ました」

といいながらそのスマホ画面を見せてくれた。

「ブログ、ほんとに誰かが書いてくれたんだ」

タマキは胸が熱くなった。その夜、家族会議(という名の夕食)で報告すると、案の定、騒ぎになった。

「お客さん来たの!? 誰!? 有名人!?」

妹・ミナはスマホを構えながら騒ぎ出す。

「コーヒー代、ちゃんともらったか?」

父・マサルは現実的すぎる質問を投げる。

「その人、うちの畑のトマト食べたことあるかしら」

祖母・フミはなぜか農業目線。

「いや、普通にコーヒー飲んで帰っただけだから」

タマキは苦笑いしながら、でもどこか誇らしかった。誰かが来てくれた。そして、誰かが誰かに伝えてくれた。

「口コミって、すごいな」

そう思った。でも、もっとすごいのは、その人も、うちのカフェのことを伝えたいと思ってくれたことだ。

「このカフェ、誰かに知ってほしい」

そう思ってくれた気持ちが、何よりありがたかった。それは、何かに似ている。誰かの幸せを願って、そっと言葉を送る。届くかどうかはわからないけど、信じて伝える。タマキは、カウンターに立ちながら思った。

「マーケティングって、願い事みたいなことなのかも?」

誰かの心に届くように、願いながら言葉を選ぶ。それは、売るためじゃなく、伝えるため。そして、伝えた人も、誰かの笑顔を願っている。その連鎖が、カフェを育ててくれる。

「ありがとう」

タマキは、まだ見ぬ誰かに向かって、心の中でそう言った。その夜、カウンターに置いたコーヒーの湯気は、いつもより長く、やさしく立ちのぼっていた。

常連さん

カフェを始めて、半年が過ぎた。古民家の壁には、少しずつ色がついてきた。お客さんが残していった言葉や笑顔が、空気に染み込んでいる気がする。

「よく続けられましたね」

そう言われることが増えた。でも、タマキは続けたというより気づいただけだった。気づいたのは、自分の中にある良さ。そして、まわりの人の中にある良さ。まごころは見えなくても伝わること。静かな空間をつくれること。誰かの話を、急がずに聞けること。

それは、特別なスキルじゃない。でも、誰かにとってはありがたいことだった。

「タマキくん、今日のコーヒー、昨日よりちょっと濃いね」

そう言って笑うのは、毎週火曜に来る常連のオオタさん。元・中学校の美術教師で、今は絵手紙を描いている。

「昨日は来てないですよね?」

「うん、でも夢で飲んだ気がしてね」

「それ、濃いとか関係ないですよね?」

オオタさんは、カフェの隅っこで絵を描きながら、時々タマキに話しかける。

「この店、空気がいいんだよ。描きたくなる」

そう言って、タマキの似顔絵を勝手に描いてくれた(なぜか、耳が異常に大きかった)。水曜の午後には、近所の小学生・ユウタくんが

「宿題やっていい?」

と来る。

「静かすぎて集中できる」

と言いながら、結局マンガを読んでいる。金曜には、パン屋のカナさんが「余ったパン持ってきたよ」と差し入れ。

「コーヒーとパンのセット、やってみたら?」

「それ、カナさんのパン、頼りすぎじゃ?」

祖母・フミも時々来ては、「この椅子、座り心地が悪い」と言って勝手に座布団を持参。

「それ、うちの座布団じゃないよね?」

「隣の家の。借りてきた」

「返して!」

来てくれた人たちも、それぞれに良さを持っていた。話し方がやさしい人。笑い方があたたかい人。沈黙を大事にする人。

「マーケティングって、結局は気づくことなのかも?」

そう思った。自分の良さに気づくこと。まわりの良さに気づくこと。それを、そっと伝えること。周りのみんなも、きっとそういう存在なんじゃないか。近くにいないけれど、ちゃんと見にきてくれている。

「あなたの良さに気づいてるよ」

と、静かに伝えてくれる。タマキは、カフェ玄関の引き戸ガラスを磨きながら思った。

「この場所が、誰かのための場所になったらいいな」

そして、今日もコーヒーを淹れる。初めて注文する人も、常連さんも、どちらも大切なお客さん。

「いらっしゃいませ」

その言葉の中に、タマキの祈りが込められていた。その声に、オオタさんが振り返る。

「今日のコーヒー、夢より美味しいよ」

「それ、現実だからです」

笑い声が、古民家の壁にまたひとつ、色を足していった。この場所が、誰かの帰り道になるように春の風が、坂の上のカフェにふわりと吹き抜けた。縁側の風鈴が、ちりんと鳴る。タマキは、カウンターの奥でコーヒーを淹れていた。

「今日は、誰が来るかな」

そう思うことが、もう日課になっていた。

変わった

「タマキ、今月の売上、黒字じゃない?」

妹・ミナが帳簿をのぞき込む。

「え、ほんとに? 俺、計算間違えてない?」

「間違えてても、黒字ってことにしとこ」

祖母・フミは、常連さんに

「うちの味噌汁飲んでみる?」

と、勝手にふるまい、父・マサルは「カフェの裏に畑作ったぞ」と、勝手にカフェ農園部門を立ち上げていた。

「俺のカフェ、どこ行った」

そう思いながらも、タマキは笑っていた。

※尾道のような海外からの観光客が多い土地なら、地域の常連さんだけでなく、全国・世界中のひととつながるように工夫するといいです。

「こんにちは」

少し緊張した様子で入ってきたのは、20代くらいの青年。挨拶のひとことで「

ここ、静かでいいですね」

と。

「ようこそ」

タマキもふつうに返す。青年は、しばらく黙ってコーヒーを飲んでいた。そして、ぽつりと話し始めた。

「僕、最近仕事を辞めたんです」

「そうなんですね」

「何か始めたいけど、何をしたらいいか分からなくて」

その言葉に、タマキは少しだけ昔の自分を思い出した。

「焦らなくていいと思いますよ」

「え?」

「空っぽのときって、何でも入れられるから」

青年は、少し驚いた顔をして、ふっと笑った。

「いい言葉ですね」

その日、青年は長居して、最後にこう言った。

「また来てもいいですか?」

「もちろん。ここは、そういう場所ですから」

カフェの壁には、常連さんの絵手紙や、子どもたちの落書きが増えていった。棚には、誰かが置いていった本や、手作りのコースター。

「いらっしゃいませ」

の声には、タマキだけでなく、家族の気配も混じっていた。

「この場所が、誰かの帰り道になったらいいな」

そう思うようになった。

夢は、最初から大きくなくていい。

誰かの心に、そっと寄り添える場所。

それが、タマキのカフェだった。

今日も、コーヒーの湯気が立ちのぼる。

日本語で注文する人も、海外の言葉で注文する人も、笑顔で迎える。

「いらっしゃいませ」

その言葉の中に、タマキの願いと、家族の愛情と、地域のぬくもりが込められていた。

そして、物語は続いていく。坂の上の、ちいさなカフェから。あなたが思い描く居場所は、どんな風景ですか?古民家カフェという選択肢が、誰かの心を温める場所になるかもしれません。この物語が、あなたの一歩を後押しできますように。

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