
ブログの開設からWordPressへの移行、そしてYouTubeとの連携まで、横田圭介さんの奮闘記をお伝えします。これは、私自身の体験記にしたかったのですが、ドローンなんて使ったことないので、横田さんからの情報に頼っています(今日は取材を兼ねた家族旅行でたまたま今治に泊まりました)。
ドローン工場

横田圭介、48歳。本業は、愛媛スカイテックドローン工場の出荷管理主任である。日々、精密に梱包されたドローンを全国へ送り出す地道な作業に勤しむ男だ。そんな圭介には、家族にも(あまり)言えない秘密の野望があった。
「俺は、ネットの海に自分だけの城を築き、いつか、ブロガー王になる!」
その火が最初に灯ったのは10年前。何かを成し遂げたいという中年の焦燥感から、まずはアメーバブログ(アメブロ)に手を出した。それからというもの、彼のネット遍歴は凄まじい。アメブロから、はてなブログ(はてブ)へ移り、GoogleのBlogger(ブロガー)へ引っ越しし、やっぱりWordPress(ワードプレス)がいいかもと浮気し、また戻る。
「パパ、また新しいおもちゃ(ブログ)始めたの? 三日坊主の三冠王ね」
妻のみどりにそう突っ込まれながらも、圭介はめげなかった。A8ネット、もしもアフィリエイト、Amazon、楽天と、世の中の主要なアフィリエイトにも一通り登録した。しかし、これまでの10年間で発生した総収益は、見事なまでに0円。宇宙のブラックホール並みに何も生み出していない。
- 日記ブログ
- 今治の焼き鳥屋巡りブログ
- しまなみ海道の名所旧跡ブログ
- 市役所前のランチブログ
思いつく限りのテーマを雑多に書き散らしてきたが、どれも不発。
「これじゃダメだ。AIの力も借りて、一から出直そう」
48歳の夏、圭介はついに覚悟を決め、ジャンルを絞ることにした。テーマは「ドローン技術と空撮体験」。これなら本業の知識が活かせる。とはいえ、技術的な内容と言っても、工場内で先輩の大島さんから聞きかじったような、業界人なら「あー、なるほど。それね」と鼻で笑うレベルの薄い知識だ。それでも、未経験者にはお宝情報に見えるはず。
まずは、長年行ったり来たりしていたBlogger(ブロガー)から、本格的なWordPress(ワードプレス)への完全移行を決意した。これがなかなかの大仕事で、夜な夜なパソコンに向き合うこと2週間。
「パパ、画面見ながら白目剥いてるわよ」
と、娘の結衣に怯えられながらも、旧ブロックエディタから、グーテンベルグエディタへの変換作業を力技で終わらせた。
次に、ドメイン(サイトのURL)をどうするか。「www」を付けるべきか、外すべきか。圭介は頼れる相棒(AI)に尋ねた(というのも、GoogleBloggerでは標準でwwwがついていたため)。
「wwwなしの方が、検索窓に入力する文字数が少なくて済みますよ」
「なるほど、合理的だ!」
圭介はさらに、4文字という極短ドメインを狙った。普通はKei1.comのようにアルファベット+数字で探すが、どれも先客がいる。そこで発想を逆転させ、数字+アルファベットの88kd.com(ハチハチ・カドヤ・ドットコム)にしてみたところ、これが一発で取得できた。
「よっしゃ! 勝った!」
リビングでガッツポーズをする圭介を、愛犬のチョコが冷ややかな目で見つめる。
さらに、ブログの見た目(テーマ)選びでも一悶着あった。以前、1万円以上出して購入したお気に入りの有料テーマDiver(ダイバー)を使おうとしたのだが、調べてみると昨年、なんと新バージョンのREダイバー(リ・ダイバー)が発売されていたのだ。
「えっ?またお金払うの? アップデートじゃなくて?」
買い直す意欲が一瞬で消え失せた圭介は、無料テーマを探した。最速と名高いQooq(クーク)も頭をよぎったが、最終的に選んだのはCocoon(コクーン)。理由は明快、国産で、たくさんの職人たちが開発に関わっているから、という昭和生まれならではのプロジェクトX的信頼感からだ。
こうして、ようやく新しい城と器が完成した。しかし、ここから圭介のブログは、予想もしなかった国際的な怪奇現象へと巻き込まれていくことになる。
海外の謎

無料テーマCocoon(コクーン)を引っ提げ、新ドメイン88kd.comで再出発を果たした圭介のドローン空撮ブログ。引っ越し作業の疲れで肩はバキバキだったが、達成感で鼻の穴が膨らむのを止められなかった。しかし、データを整理しているとき、圭介はある奇妙なデータに目を留めた。
「ん? なんだこれ」
アクセス解析の画面を見ると、Blogger時代からなぜか海外からのアクセスが一定数存在しているのだ。アメリカ、インド、はては、東欧のルーマニアまで。今治のしがないドローン工場の出荷主任が書いた「プロペラの安全な拭き方」なんて記事を、一体どこのマフィアが読んでいるというのか。
「パパ、もしかして国際サイバーテロ組織に狙われてるんじゃ?」
夕食のカレーを食べながら、娘の結衣が真顔で脅してくる。
「よ、よしなさい結衣。パパがそんな大層なことに巻き込まれるわけないでしょ。せいぜい、海外のスパムロボットが迷い込んだだけよ」
妻のみどりが冷たくあしらうが、圭介の心臓はバックバクだ。不安になった圭介は、夜中にこっそり布団を抜け出し、AI(人工知能)の相棒に相談してみた。
「先生、教えてくれ。俺のブログに海外からのアクセスが多いのはなぜだ? 命の危険はあるか?」
AIの返答は、予想外に平和なものだった。
「ご安心ください。それは、日本語を勉強している海外の学習者たちが、生きた教材としてあなたのブログを閲覧している可能性が高いですよ」
「へ?」
パソコンの前で、圭介の口がぽかんと開いた。テロ組織どころか、海を越えた若者たちが「ドローンのバッテリーは、寒さにすこぶる弱いのである」といった圭介の拙い日本語を、目を皿のようにして読んでいるというのだ。
その瞬間、圭介の脳内で、眠っていた自称ブロガー王の細胞が激しくうずいた。
「そうか! ならば俺は、彼らの学びの灯(ともしび)にならねばならん!」
翌朝。リビングに鼻息荒く現れた圭介は、家族に重大発表を行った。
「みんな、聞いてくれ。これからはグローバル社会だ。俺のブログに、日本語と英語の解説ラジオを併設することにした!」
みどりが持っていたお玉の手を止め、怪訝そうな顔をする。
「解説ラジオって、あんたが喋るの? その、こてこての伊予弁で?」
「そこはAIの力も借りてだな! 調べたら、YouTubeを使ってブログに音声を埋め込むのがベストらしいんだ」
こうして、48歳にしてYouTuber(ユーチューバー)への挑戦が始まった。まずはGoogleアカウントを引っ張り出し、未知の領域YouTubeスタジオを開設。画面に並ぶアナリティクスだの、コンテンツだのといった横文字の嵐に頭がクラクラしたが、出荷管理で鍛えた粘り強さで、なんとか動画のアップロード方法をマスターした。
「よし、動画の概要欄にブログのリンクを貼るぞ。これでYouTubeからブログへお客さんを誘導する導線(プロっぽい響き!)ができる」
圭介の指がキーボードを叩く。さらにAI先生のスパルタ指導は続く。
「動画を見終わった後に、視聴者がそのまま帰ってしまってはもったいないです。いいねボタンを押してもらったり、他の動画も見てもらえるように【終了画面】を設置しましょう」
「しゅ、しゅうりょうがめん?」
また新しい専門用語だ。圭介はYouTubeの解説動画を一時停止しては再生し、自分の画面と見比べながら、必死に設定方法を画面に叩き込んでいく。
「パパ、まだやってんの?」
深夜1時、トイレに起きてきた結衣がリビングを覗き込む。そこには、画面に映る「チャンネル登録はこちら!」の丸いアイコンの位置を、1ミリ単位で微調整している父親の姿があった。その目は完全に血走っている。
「ふふふ。これで海外のファンもイチコロだぞ」
ぶつぶつ呟く父親の姿に、結衣は、テロ組織よりパパの方が怖い、と呟いて、足早に寝室へと逃げ帰っていった。
公開ボタン

「いいねボタンの設置、よし! 終了画面のリンク、よし!」
深夜の横田家リビング。圭介は、仕上がったばかりの「YouTube連動型・日英解説付きドローン空撮ブログ記事」を前に、パソコンの画面を凝視していた。あとは、画面右上にある青い公開ボタンをマウスでカチッとクリックするだけ。出荷管理主任として、毎日何百個ものドローンを全国へ正確に送り出している圭介だが、自分の記事を世界に向けて出荷するとなると、話は別だ。人差し指がプルプルと震える。
「よし、いくぞ。ポチッとな!」
静寂のなかに、乾いたクリック音が響く。ついに世界へ放たれたのだ。今治の片隅から、世界(主にルーマニアの日本語学習者)に向けて。
翌朝。圭介はいつもより30分早く目が覚めた。布団の中でスマホを掴み、血眼になってアクセス解析の画面を開く。
0(ゼロ)
画面に表示された本日の訪問者数は、非情なるゼロ。昨日あんなに苦労して設置したYouTubeの再生回数も、安定のゼロ。地球の裏側からの熱い視線どころか、近所の野良猫すら見にきていない有様だ。
「パパ、朝から顔が般若(はんにゃ)みたいになってるわよ。ほら、ご飯食べて」
妻のみどりが、お皿に目玉焼きをぽんと載せる。
「みどり。世界は広い。だが、俺の記事を見つけるには、まだ広すぎるのかもしれない」
「何かっこつけてるのよ。いいから早く食べないと遅刻するわよ」
がっくりと肩を落として出社した圭介だったが、転んでもただでは起きないのが48歳のしぶとさだ。
「アクセスがないなら、もっとキラーコンテンツを作るまで。そうだ、実際の空撮体験談をリアルに書けばいいんだ!」
その日の夕方。圭介は会社の先輩である大島さんから、使わなくなった古い練習用ドローンを格安で譲り受けた。
「横田くん、ブログやるのはいいけど、ちゃんと法律は守れよ? あと、人混みで飛ばすなよ」
「もちろんです、大島さん! 今治の広大な自然をバックに、最高の映像を撮ってブログに載せます!」
週末。圭介は意気揚々と、家族を連れて近くの人気の少ない海岸へと向かった。
「いいか結衣、みどり。今からパパが、この最新(※おさがりの旧型)ドローンで、瀬戸内海の美しい夕日をダイナミックに撮影する。これがブログに載れば、アクセスは一気に爆発だ!」
「パパ、プロペラの音がなんかブゥゥゥンって、機嫌の悪い大きなハチみたいで怖いんだけど」
娘の結衣が耳を塞いで一歩下がる。
「大丈夫だ、出荷管理主任の腕を見せてやる!」
圭介がコントローラーのレバーをぐっと握る。ドローンは勢いよく浮き上がり、今治の穏やかな海の上へと進んでいった。画面に映し出される、夕日に染まる瀬戸内海。
「おお、素晴らしい! 絶景だ!」
圭介のテンションは最高潮に達した。ブログのタイトルは『今治の夕日と、風を感じるドローン空撮』にしよう。その時だった。急に瀬戸内特有の突風が「ゴォッ」と吹き抜けた。
「あっ、おい! 戻れ! 戻るんだ!」
液晶画面の中で、ドローンが激しく横揺れを始める。圭介は必死にレバーを操作したが、聞きかじりの知識しか持たない48歳に、野生の風は容赦なかった。ドローンは、圭介の制止を振り切るようにして、海岸沿いに生い茂る松林の奥深くへと、ものすごいスピードで吸い込まれていった。
「あ!」
遠くで、ガサガサガサッ!と不穏な音が響き、手元の液晶画面が砂嵐(スノーノイズ)に切り替わる。
静まり返る海岸。波の音だけが、虚しくザザーンと響いていた。
「パパ。今、ブログのネタが文字通り飛んでった?」
結衣の冷静なツッコミが、圭介の鼓膜を容赦なく突き刺した。
ドローン・ロス

夕日に染まる今治の海岸で、おさがりのドローンが松林の藻屑(もくず)となってから3日。横田家のリビングには、未だに重苦しい空気が漂っていた。いや、正確に言えば、落ち込んでいるのは圭介ただ一人である。
「パパ、いつまでそうやって、ぬけ殻みたいになってるのよ。出荷作業の手が鈍るわよ」
妻のみどりが、麦茶のグラスをテーブルにドンと置く。
「みどり。俺の空撮ブログは、空を飛ぶ前に墜落したんだ。ルーマニアの若者たちに、俺は一体何を伝えればいいんだ?」
ソファに深く沈み込み、天井を見つめる圭介。ドローンを失った今、ドローンで空撮する方法という看板タイトルは偽りになってしまう。そこへ、学校から帰ってきた娘の結衣が、カバンを放り出してリビングに入ってきた。
「パパ、まだドローン引きずってんの? 諦めるの早すぎ。っていうかさ、パパのブログ、昨日からアクセスが、12になってるよ?」
「えっ!?」
圭介は跳び起きた。すぐさまスマホをひったくり、WordPress(ワードプレス)のアナリティクス画面を開く。確かに、いつも「0」で行進していたグラフの棒が、ピコッと上に跳ねていた。驚くべきことに、YouTubeにアップした「【悲報】初フライトで松林に特攻したドローン【今治】」という、結衣が横でこっそりスマホで撮っていた15秒のショート動画の再生回数は、すでに、300回を超えている。
概要欄に貼った88kd.comのリンクから、何人かがブログに流れ着いたのだ。恐るおそるブログのコメント欄を開くと、翻訳ツールを使ったような不思議な日本語が届いていた。
「動画見ました。ドローン、悲しいですね。でも、あなたの家族の笑い声、とても温かいです。日本の家族、素晴らしい」
画面を見つめる圭介の目が、みるみると点になった。喉の奥がカッと熱くなり、言葉にならない感情が全身の毛穴から吹き出す。
「これだ!」
圭介はハッと気づいた。自分が本当に書きたかったもの。10年間、アメブロからはてなブログ、Bloggerを行き来しながら、ずっと探し求めていた自分のコンテンツ。それは、大層なドローンの技術解説でも、プロのような美しい空撮映像でもなかった。
ドローンに振り回され、家族に突っ込まれ、それでもドタバタと生きている、横田圭介という男の、日常そのものだったのだ。ブログ記事は、世界に向けた情報発信であると同時に、自分自身の不器用な生き様の日記でもあった。
「よし。書くぞ!」
48歳の指が、再び猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。無料テーマCocoon(コクーン)の真っ白なエディタ画面が、圭介の言葉でみるみる埋まっていく。タイトルは、「ドローンを松林に捧げた男の、翌日の晩御飯(今治名物・焼豚玉子飯)」。
相変わらずアフィリエイトの収益は1円も発生していない。これからAIがどれだけ進化しようとも、48歳のおじさんがドローンを失くして右往左往する記事が、ネットの荒波でどれだけ育つのかは未知数だ。
「パパ、また白目剥きながら怪しい笑みを浮かべてる。今度はどこの国の人を笑わせる気?」
結衣が呆れたように笑う。
「ふっ、今度は全米を泣かせる予定だ」
「はいはい、その前に明日の燃えるゴミ、ちゃんとまとめておいてね」
みどりの容赦ない現実的な指示が飛ぶ。
「イエス・マム! ただちに出荷(ゴミ出し)準備に取り掛かります!」
圭介は威勢よく返事をして、パソコンをパタンと閉じた。ブロガー王への道のりは果てしなく遠い。けれど、横田圭介のキーボードが止まることは、これからもきっと、無い。

