
三流営業マンの主人公タダシ(モデルは著者)が、Amwayのミーティングで、ダイレクトディストリビュータ(DD)から授かった知識「安心感と信頼」を武器に、道を切り開き、医療現場から頼られる営業マンに成長していく物語。37回シリーズ。

大学病院の正面玄関は、
いつ来ても大きい。
タダシはその前に立つと、
胸の奥がキュッと縮むような
感覚に襲われた。
「ほいじゃ、今日もやるで」
思わず広島の方言が漏れた。
自分でも気づかない癖だ。
この癖のせいで、
過去に何度か苦情を
受けたことがある。
「雑なんだよ、言い方が」
「営業なんだから、
もっと丁寧に話してよ」
そんな言葉を
もらったこともあった。
タダシは35歳。
広島市出身。
北区にある社員20名の
小さな医療機器メーカーに、
中途採用で入った。
扱っているのは
カテーテル治療のデバイス。
命に関わる製品だ。
だからこそ、
言葉遣いひとつで信用を失う。
それは頭では分かっているのに、
ふとした瞬間に方言が出てしまう。
今日も、
医局の前で深呼吸をした。
昨日は名刺を
置いただけで終わった。
誰とも話せなかった。
(今日は、誰か一人でも
話せたらええんじゃけど)
ノックをして、ドアを開ける。
「失礼します。
昨日より担当になりました、
タダシと申します」
医師たちはちらりと
こちらを見るが、
すぐにカルテに視線を戻す。
「忙しいから、また後で」
- 昨日と同じ言葉。
- 昨日と同じ空気。
- 昨日と同じ無関心。
タダシは名刺を置き、
静かに部屋を出た。
廊下を歩きながら、
胸の奥がズキズキと痛む。
(また、誰とも話せんかった)
次の科に向かう途中、
スマホが震えた。
同じ年の先輩社員、
サトシからだった。
「どう?初日、
うまくいった?」
タダシは少し迷ってから
返信した。
「いや。誰も話してくれんかった」
すぐに返事が来た。
「最初はそんなもんだよ。
気にすんな。
俺もそうだったし」
その言葉に、
少しだけ救われた。
サトシは同い年だが、
営業としての経験は長い。
言葉遣いも丁寧で、
医師からの信頼も厚い。
(サトシみたいになれたら
ええんじゃけど)
そう思いながら、
次の科へ向かった。
しかし、
状況は変わらなかった。
「忙しいから」
「資料だけ置いといて」
「また後で」
どの科でも同じ反応。
誰もタダシの話を
聞こうとしない。
夕方、車に戻ったタダシは、
シートに深く沈み込んだ。
「俺、ほんまに
向いてないんじゃないか?」
広島の方言が、
ため息と一緒に漏れた。
赤羽の会社に入ったときは、
もっと明るい未来を
想像していた。
医療機器の営業は、
やりがいのある仕事だと
思っていた。
人の命を支える仕事だと
誇りを持っていた。
でも現実は、
想像していたよりずっと冷たくて、
ずっと孤独だった。
(どうしたらええんじゃろ)
そのとき、
ふとサトシの言葉が頭に浮かんだ。
「最初はそんなもんだよ」
その、そんなもんが、
どれほど苦しいものなのか。
タダシは今、
身をもって知っている。
缶コーヒーを開け、
夕焼けを見つめながら、
タダシは思った。
(このままじゃいけん。
何か変えんと)
その何かが何なのかは、
まだ分からない。
でも、心の奥で
小さな火がまた灯った。
この日、タダシはまだ知らない。
この苦しさが、後に
- 大きな学びにつながることを。
- そして、ある出会いが
彼の人生を静かに変えていくことを。
物語は、まだ始まったばかりだ。







