美男美女で会社のスター夫婦。でも家ではポンコツ×ツッコミの最強コンビ。そんなヒサシ(39)とアイコ(29)の笑って、ちょっと泣けて、最後はほっとするドラマにまとめました。「この夫婦、なんか好きだな」と思えるようなお話しです。
ヒサシとアイコ、会社でちょっと目立つ夫婦

ヒサシ(39)は、衣料品メーカーの営業担当。背が高くて、スーツがやたら似合う。転職しても、なぜか女子社員からの視線が刺さる。
(あの人、既婚者なのにカッコよすぎない?)
(いや、既婚者だからこそ安全に眺められるのよ)
そんな声が給湯室で飛び交っていたらしい。しかし、ヒサシ本人はまったく気づいていない。なぜなら、ヒサシの妻・アイコ(29)。女優のような顔立ち、すらりとした長身。会社の独身男性たちが、こっそりアイコ派閥を作るほどの人気。ただし、女子社員からは微妙に距離を置かれていた。
(あの美貌で性格まで良いとか、どういうこと)
(ヒサシさんと並ぶと、なんかドラマのポスターみたいで腹立つ)
そんな嫉妬まじりの噂もあったが、アイコは気づかず、いつもニコニコしていた。実はこの夫婦、ただの美男美女ではない。ヒサシは営業成績トップクラス。アイコは企画部で新商品を次々ヒットさせる。二人が並んでプレゼンすると、社長が満足げにうなずくのが恒例行事になっていた。
「うちの会社の未来は明るいなぁ」
「この二人、結婚したら絶対呼んでくれよ」
そんな冗談が飛び交っていたが、結婚式には本当に、社長・部長も呼ばれ出席した。結婚式のスピーチで社長は言った。
「ヒサシくん、アイコさん。君たちは会社の宝だ。どうか夫婦でも会社でも、明るい未来を築いてほしい」
その言葉に、会場の独身男性たちは(いや、俺たちの未来はどうなるんだ)と心の中で突っ込んだとか、突っ込まなかったとか。こうして、社内で最も期待される夫婦が誕生した。ただし、この夫婦の本当の物語は、まだ始まっていない。
ヒサシ、家ではなぜか戦力外通告

営業成績トップ、社長からの信頼も厚いヒサシ。しかし、家に帰ると――
「ヒサシ、洗濯物、干しておいた?」
「あっ」
この「あっ」が、毎日聞こえる。会社では資料の数字を完璧に覚えているのに、家では洗濯物の存在を3分で忘れる男だった。アイコはため息をつきながらも、「まぁ、ヒサシだしね」と笑ってしまう。アイコは仕事ではキレ者だが、家ではヒサシのポンコツぶりを優しさで包み込むタイプだった。
「ヒサシ、ゴミ出し今日だよ」
「えっ、昨日じゃなかった?」
「昨日は明日って言ったよ」
「あっ」
また「あっ」が出た。アイコは笑いながら、
「ヒサシの《あっ》コレクション作れそう」
とメモ帳に書き始めた。ただ、ヒサシにも得意分野は、ある。
- アイコが落ち込んだら、必ず笑わせる
- 家電の故障はなぜか一発で直す
- アイコの好物(プリン)の在庫管理だけは完璧
「プリン切らしたら、うちの平和が終わるからな」と真顔で言うヒサシに、アイコは吹き出した。そんなある日、アイコは同僚に言われた。
「アイコさん、旦那さんって家ではどうなの?」
「えっとかわいいポンコツ?」
「え、あの営業のエースが?」
「はい。家ではヒサシくん(5歳)です」
その瞬間、同僚たちは「ギャップ萌え夫婦じゃん」とざわついた。アイコは帰宅後、ヒサシに言った。
「ねぇ、ヒサシ。あなたって家だと5歳児みたいだよ」
「えっ、6歳くらいにはなってると思ってた」
「そこじゃないよ」
二人はしばらく笑いあった。会社では将来有望なスター夫婦。家では、ポンコツ夫とツッコミ妻。このギャップこそが、二人の結婚生活を面白くしていた。そして――。この家庭内コメディは、まだまだ序章にすぎない。
義母の家で、ヒサシがまさかの大事件を起こす

ある週末、ヒサシとアイコは、アイコの実家へ遊びに行くことになった。アイコの母・ミドリは、明るくておしゃべりで、ちょっと天然。ヒサシはこの天然さに毎回振り回されていた。
「ヒサシくん、今日はゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
ヒサシは丁寧に頭を下げたが、その瞬間、ミドリが言った。
「ところでヒサシくん、最近ちょっと太った?」
「えっ?」
初手からストレートパンチだった。アイコは慌ててフォローする。
「お母さん、それ言わなくていいから」
「だって健康が心配でねぇ」
「(いや、ただの感想だよね)」とヒサシは心の中でつぶやいた。ミドリは突然、台所から怪しげな緑色の液体を持ってきた。
「これ、最近ハマってる健康ドリンクなの。飲んでみて」
「え、あ、はい」
ヒサシは断れない性格だ。コップを口に運んだ瞬間――、
「草?」
「そう、庭のスーパーフードよ」
「庭?」
アイコが小声で説明する。
「お母さん、最近庭の雑草は全部スーパーフード説にハマってるの」
「えっ、それ大丈夫なの?」
「知らない」
ヒサシは、飲んだ後になぜか胸のあたりがポカポカしてきた。
(これ、効いてるのか、ただの雑草なのか)
食後、ヒサシは気を利かせて、掃除機をかけようとした。
「ヒサシくん、助かるわぁ」
「いえ、これくらい」
しかし、ミドリ家の掃除機は最新式のロボット+手動ハイブリッド型。スイッチが多すぎる。
「えーっと、これかな?」
ピッ。
次の瞬間、ロボット部分が暴走し、ヒサシの足に突撃してきた。
「うわっ!」
「ヒサシ、逃げて!」
「なんで僕がロボットに追われてるの!」
ミドリはのんきに言う。
「あら〜、その子、たまに元気すぎるのよねぇ」
元気すぎる掃除機とは。ロボット掃除機が暴れ回る中、ミドリが叫んだ。
「ヒサシくん!そのボタン押して!」
「どのボタンですか!」
「赤いの!」
「全部赤いんですけど!」
結局、アイコが冷静に電源コードを抜いて終了。ヒサシはソファに倒れ込み、ミドリは申し訳なさそうに言った。
「ごめんねぇ、ヒサシくん。あなたが運動不足だと思って、ちょっと運動させてあげようと思って」
「えっ、わざとですか?」
「違う違う、たまたまよ〜」
アイコは笑いながら言った。
「ヒサシ、今日だけで5歳児から3歳児に戻ったね」
「成長どころか退化してる」
帰り際、ミドリがそっとヒサシに言った。
「ヒサシくん、アイコを大事にしてくれてありがとうね」
「えっ?もちろんです」
ミドリはにっこり笑った。
「あなたが来ると、家が明るくなるのよ。ドタバタだけど、楽しいわ」
ヒサシは照れながら頭をかいた。(雑草ジュースと掃除機暴走の家で、 楽しいと言われるとは思わなかったけど、なんか嬉しいな)
こうして、義母との小さな事件は、家族の距離をほんの少し縮めたのだった。
アイコ、ヒサシの実家でまさかの試練を受ける

ヒサシの実家は、アイコの実家とは真逆の静寂系。父・タケオは寡黙。母・ヨシコは優しいが、言葉数が少ない。アイコは緊張しながら玄関に立った。
「お邪魔します」
「ああ、いらっしゃい」
「どうぞ」
静か。とにかく静か。
(え、これ私、音を立てたら怒られるやつ?)
と、アイコは一瞬で背筋が伸びた。ヒサシは慣れた様子で靴を脱ぎながら言う。
「うち、基本無音だから」
「知ってたら心の準備したのに!」
夕食の時間。タケオは黙々と食べるタイプ。アイコは話題を変えようと頑張る。
「お義父さん、ヒサシさんって子どもの頃はどんな感じでした?」
「普通」
「そ、そうですか!」
(普通って何?もっと情報!)
アイコの心の声が天井に吸い込まれていく。ヒサシは小声で言う。
「父さん、照れてるだけだから」
「照れ?」
「うん、褒めるとき全部普通になるの」
(それ褒めてるの?)
ヨシコは優しいが、声が小さい。
「アイコさん、これ食べる?」
「えっ?あっ、はい!ありがとうございます!」
「これも」
「えっ?あっ、はい!ありがとうございます!」
「これも」
「えっ?あっ、はい!ありがとうございます!」
気づけばアイコの皿は山盛り。
(これ、私の胃袋のキャパを試されてる?いや、違う、ただの優しさ!)
しかし、ヨシコは静かに微笑むだけ。ヒサシは言う。
「母さん、アイコのこと気に入ってるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「気に入った人には無限おかわりが出る」
「それ先に言って!」
夕食後、ヨシコが言った。
「お風呂、どうぞ」
「ありがとうございます」
アイコはお風呂場へ向かったが、そこで異変に気づく。
(シャンプーが全部、無香料!?)
棚には
- 無香料シャンプー
- 無香料リンス
- 無香料ボディソープ
- 無香料洗顔
- 無香料ハンドソープ
- 無香料入浴剤(存在するのか?)
アイコは震えた。
(香りがない!私の癒しが全部無!)
ヒサシの家は香り禁止の家だった。理由はタケオの一言。「匂いがあると落ち着かん」シンプルすぎる理由。帰り際、タケオがぽつりと言った。
「アイコさん」
「は、はい!」
「また来てくれ」
「えっ!」
ヨシコも静かに言う。「あなたが来ると、ヒサシが嬉しそう」
アイコは胸がじんわり温かくなった。(静かだけど優しい家だな)
ヒサシは笑って言った。「うちの家族、言葉少ないけどさ。アイコのこと、すごく気に入ってるよ」
アイコは照れながら答えた。「じゃあまた来ます。無香料の覚悟をして」
タケオが小さく笑った。「助かる」
その笑顔は、アイコが今日見た中で一番大きな変化だった。
ヒサシとアイコ、すれ違いの夜にプリンが救う

ある平日の夜。ヒサシは残業で遅くなり、アイコは一人で夕食を済ませていた。
「今日は遅いなぁ」
時計を見るたびに、アイコの胸に小さなモヤモヤが積もっていく。(最近、ヒサシ忙しすぎない?私と話す時間、減ってる気がする)
もちろん、ヒサシに悪気はない。ただ、仕事が立て込んでいるだけ。でも、気持ちは理屈じゃない。夜10時。ヒサシが帰ってきた。
「ただいまー疲れたぁ」
「おかえり」
アイコの声は、いつもよりワントーン低い。ヒサシは気づかない。
「今日さ、部長に急に呼ばれてさ〜」
「ふーん」
(あれ?なんか冷たい?)と、ヒサシが思ったときには遅かった。アイコはぽつりと言った。
「最近、私より仕事の方が大事そうだね」
ヒサシは固まった。「えっ、そんなことないよ?」
「でも、話す時間ほとんどないよ」
「いや、仕事が」
「わかってるよ。でも寂しいんだよ」
その言葉に、ヒサシは胸がぎゅっとなった。ヒサシは慌てて言った。「じゃあさ、今から話そう!なんでも聞くよ!」
「今は、いい」
「えっ?」(やばい、完全に地雷踏んだ!)焦ったヒサシは、なぜか冷蔵庫を開けてしまう。
(こういう時はプリン?いや、違うか?)しかし、プリンはそこにあった。アイコの大好物。ヒサシは震える手でプリンを差し出した。
「プリン、食べる?」
「子ども扱いしないでよ」
「ごめん」
プリン作戦、失敗。しばらく沈黙が続いた。
アイコは思う。(怒ってるわけじゃない。ただ、ヒサシと笑う時間が減ったのが寂しいだけ)
ヒサシも思う。(仕事で疲れてるのは本当だけど、アイコの気持ち、ちゃんと見てなかったな)
二人は同じことを思っているのに、言葉にできない。その時、アイコがぽつりと言った。「そのプリン、半分こしよ」
ヒサシは顔を上げた。「えっ、いいの?」
「うん。怒ってるわけじゃないよ。ただもうちょっと一緒にいたいだけ」
ヒサシはプリンのフタを開けながら言った。「ごめん。仕事ばっかりで、アイコのこと後回しにしてた」
「後回しじゃないよ。ただ私が勝手に寂しくなっただけ」
「いや、ちゃんと気づくべきだった」
二人はスプーンを交互に入れながら、少しずつ笑顔を取り戻していく。
「やっぱりプリンって平和の象徴だな」
「そんな大げさな。でも、わかる」
プリンの甘さが、二人の距離をそっと溶かしていった。
翌朝

ヒサシとアイコ、未来へ向けて小さな一歩。プリンで仲直りしたとはいえ、翌朝のリビングには、まだ少しだけ気まずさが漂っていた。ヒサシはトーストをかじりながら、ちらちらとアイコの顔をうかがう。(怒ってはないよね? いや、怒ってないはずたぶん)
アイコはコーヒーを飲みながら、ちらっとヒサシを見る。(昨日は言いすぎたかな。でも、気持ちは本当だったし)
二人とも、相手を気にしているのに、なぜか言葉が出てこない。出勤前、ヒサシは玄関で靴を履きながら言った。
「アイコ」
「ん?」
ヒサシは深呼吸した。
「今日、仕事早く切り上げる。部長にも言ってみる。アイコとちゃんと話したいから」
アイコは驚いた。
「えっ?そんな無理しなくていいよ?」
「無理じゃない。昨日、アイコが寂しいって言ったの、ちゃんと受け止めたいんだ」
アイコの胸がじんわり温かくなる。「ありがとう」
ヒサシは照れくさそうに笑った。「プリンだけじゃ、埋められない時もあるからな」
「そこはプリンじゃなくて気持ちでしょ」
「気持ち+プリンのセットで」
「セット販売みたいに言わないで」
二人はようやく笑い合えた。
ヒサシは本当に早く帰ってきた。部長に「今日は帰ります」と言ったら、「おお、ついに家庭優先か。いいぞ」と背中を押されたらしい。夕食後、二人はソファに並んで座った。
「ねぇヒサシ」
「ん?」
「これからも、忙しい時はあると思うけど。ちゃんと話す時間だけは作りたいね」
「そうだな。仕事も大事だけど、アイコとの時間も大事だし」
ヒサシは続けた。「それにいつか家族が増えたら、もっと時間の使い方考えないといけないしな」
アイコは少し驚いた。「家族?」
「うん。まだ具体的な話じゃないけどさ。アイコとなら、どんな未来でも楽しそうだなって」
アイコの目が少し潤んだ。「私も。ヒサシとなら、どんな未来でも笑っていられると思う」
二人は自然と手をつないだ。しんみりした空気の中、ヒサシが突然言った。
「ところでアイコ」
「なに?」
「プリン、もう一個買ってある」
「えっ、どこに?」
「冷蔵庫の奥。非常用」
「非常用って何?」
アイコは笑いながら冷蔵庫を開けた。「ほんとだ!ヒサシ、これいつ買ったの?」
「昨日の帰り。仲直りできなかった時のために」
アイコはプリンを抱えて言った。「もう、ほんとに5歳児なんだから」
「6歳にはなったと思うんだけど」
「そこはどうでもいいの!」
二人の笑い声が、小さなリビングに優しく響いた。プリンを半分こしながら、アイコはふと思った。
(すれ違うこともあるけど、この人となら、ちゃんと向き合っていける)
ヒサシも思った。(アイコがいれば、どんな日でも帰りたい場所になる)
こうして、美男美女で会社のスター夫婦は、家では相変わらずのポンコツ×ツッコミ夫婦として今日も笑い合うのだった。
コメント