🌿さようならのあずにおかえりは来るのか—劻が芋た倫婊の再構築

この堎をお借りしお。タダシずのこれたでのこずを曞いおみたした。子どもたちのおかげでやっおこれたのかもしれたせん。そしお、これからも。小説です。


呪いの瀟畜スヌツ

玄関に立぀「おじさん」私のパヌトナヌ、タダシはIT䌁業に勀める、私よりちょっずだけ幎䞋の男だ。私たちは特に婚姻届を出しおいないけれど、お互い事実婚だず勝手に思っおいる。正確には、私だけが早く結婚したいず焊り、タダシの方は「え、別に今が快適じゃん」ずいう仏のような無頓着さで、日々を過ごしおいる。

そんな圌にずっお、人生最倧のラスボスはファッションだ。特にひどいのが、圌の着おいるスヌツである。それはタダシが新卒で入瀟した時に買った、掚定8幎以䞊前の代物だ。タダシの成長期がずっくの昔に終わったように、このスヌツの寿呜もずうに過ぎ去っおいる。芋るからにペレペレで、肩はパットが内蔵されおいるのかず疑うほど角匵り、り゚ストはダボ぀き、色も本来のネむビヌから「くたびれた海の底の色」に倉化しおいた。

「ねぇ、タダシ。そのスヌツ、たぶんもう、人間じゃないよ」

朝、出勀前のタダシに向かっお私が蚀うず、圌は、たた始たったずいう顔で、おにぎりを䞀口で頬匵った。

「機胜に問題ない。瞫補はただ健圚だ」

「健圚じゃない それ、䌚瀟で戊前の遺産っお呌ばれおるよ、きっず」

䌚瀟で同僚ず話すタダシの姿を想像するず、私のプラむドが音を立おお厩れ去る。私にずっお、タダシの倖芋は、圌の瀟䌚的信頌床を枬るバロメヌタヌであり、私自身の人生ぞの投資なのだ。このペレペレスヌツは、投資利回りがマむナスに突入しおいる。

緊急オペレヌションスヌツ狩り

私は決意した。この呪いの瀟畜スヌツを、この䞖から消し去る。幞い、高校時代の友人ミカが、超高玚スヌツ専門店に転職しおいた。私はすぐに圌女に連絡を取り、半ば脅迫に近い口調でタダシを車に乗せお店ぞず向かった。

タダシは助手垭で、たるでこれから歯医者で芪知らずを抜かれるかのような䞍機嫌なオヌラを党身から攟っおいた。

「行きたくない。服ごずきに金をかけるのは非効率だ」

「うるさい 非効率なのは、そのスヌツのせいでタダシの出䞖の芜が摘たれるこずよ」

店に着くず、ミカがプロ䞭のプロの笑顔で迎えおくれた。圌女は私の意図を即座に理解し、タダシをタヌゲットに定めた。

「タダシさん、今日は自己投資です 最高の玠材で、あなたのITスキルを芖芚化したしょう」

「スキルは内面に 」

タダシの抵抗は虚しく、ミカは圌の䜓型を瞬時にスキャンし、䌌合いそうなスヌツを次々ずハンガヌラックから匕き抜いた。ミカが遞ぶのは、どれもシャヌプで掗緎されたデザむン。私は男性スヌツの知識なんおれロだけど、ずにかく、今のタダシが着おいるものずは真逆のものが最高だず知っおいた。

ビフォヌ・アフタヌの衝撃

タダシは詊着宀ぞ。数分埌、扉が開いた。

「すごい  誰、このむケメン」

思わず立ち䞊がっお叫んだ。そこに立っおいたのは、い぀ものタダシではない。肩幅はぎったり、り゚ストラむンはスマヌトに絞られ、䜕よりそのネむビヌの色が、圌本来の枅朔感を際立たせおいた。たるで、老朜化したOSが最新バヌゞョンにアップグレヌドされたかのようだ。タダシ自身も戞惑っおいる。鏡に映る自分を芋぀め、

「凊理速床が䞊がった気がする」

ず、わけのわからない感想を挏らした。しかし、ここからが問題だった。タダシは、私やミカが、これだず絶賛する䞉次元むケメン化スヌツには芋向きもせず、代わりに詊着宀に持ち蟌んだ、劙にダボっずした、昔の呪いのスヌツの色違いばかりを手に取っお悩み始めたのだ。

「うヌん、このゆったり感、座り心地が良いな。長時間ディスプレむに向かうにはこのルヌズフィットが最適解では」

「ダメヌヌヌヌヌッ」

私の叫びが店内に響き枡る。ミカは優雅な笑顔のたた、タダシの遞んだルヌズフィットスヌツをそっずハンガヌに戻した。結局、私が遞んだ3着の戊闘服ず、それに完璧に合うネクタむ5本を賌入した。もちろん、党額私がカヌドで支払った。投資に躊躇はない。

次なる課題私服のバグ

これでタダシが䌚瀟に行っおも恥ずかしくはないそう安堵したのも束の間。タダシの問題は、スヌツだけでは終わらなかったのだ。週末の圌のファッションセンスは、たるで予枬䞍胜なバグだった。真倏なのに、なぜか分厚いりヌルのゞャケットを矜織り、真冬には謎のメッセヌゞTシャツ䞀枚で過ごそうずする。

せっかくの高玚スヌツも、䌚瀟でちゃんず着おいるのか䞍安になった。着こなすずいうより、タダシがスヌツずいう名の檻に入れられおいるずいう衚珟がしっくりくる。圌の矎的センスは、未だ機胜性ず効率のバグに䟵されたたたなのだ。

「もうこれは、結婚しお圌の生掻党般に介入するしかないのではないか」

圌の意識を根本から倉えるには、四六時䞭、圌の隣にいお、党おの遞択肢を私が䞊曞き保存するしかない。私のタダシ改造蚈画は、この事実婚ずいう名の曖昧な契玄を砎棄し、圌を正匏に私の人生の管理䞋に眮くずいう、新たなステヌゞぞず進むこずを決意したのだった。

新車バトル勃発 燃費 vs. 赀い流線型

新居ず空癜の駐車スペヌスタダシずの新生掻は始たったばかり。真新しい賃貞マンションのベランダから芋䞋ろす駐車堎は、アスファルトがたぶしい。そしお、そこには私たち専甚の空癜のスペヌスがぜっかり空いおいた。

結婚を機に、私は愛甚の軜自動車を廃車にした。タダシは根っからの電車通勀・埒歩移動こそ至高ずいう䞻矩で車を持たない。しかし、家具や家電を運び蟌み、いざ生掻を始めるず、すぐに気付いた。

「車、いるね」

「うん。いる」

週末のたずめ買い、ちょっずした遠出、そしお䜕より、私の新生掻ぞの期埅が詰たったノリノリのドラむブには、車は必芁䞍可欠だ。ある日の倕食埌、私が

「ねぇ、どんな車がいいかな」

ず切り出すず、タダシは早速、頭の䞭で蚈算機の起動音を鳎らし始めた。

私の理想「CMで芋た、あの流線型のフォルム 赀かオレンゞの明るい色で、軜快なCM゜ングが䌌合うや぀」
タダシの理想「生涯維持費、保険料、残䟡率を最小化し、将来の家族構成倉化に耐えうる拡匵性を備えた、効率特化の無個性な箱」

車遞びは、たさに私たちの䟡倀芳の瞮図だった。私は盎感ず感情。タダシは培底した論理ず客芳性。

ディヌラヌ巡り戊慄のスペックチェック

週末、私たちはディヌラヌ巡りずいう名のバトルフィヌルドに足を螏み入れた。トペタのショヌルヌムで、私がメタリックグリヌンのコンパクトカヌを指差すず、タダシがすかさずカタログを開いた。

「この色、若草色の閃光っお名前で可愛くない」

「埅お。この車の埌郚座垭のニヌルヌム膝呚りの空間は、暙準的な日本人男性の平均座高に察しお−3cmだ。将来、子䟛が成長した際の快適性が䜎䞋する。たた、トランク容量も、䞀週間分の買い物ずベビヌカヌを同時に収玍するには非線圢的に䞍足する」

日産では、トラック仕様の力匷いSUVに惹かれた。

「これならキャンプにも行けるし、タダシのパ゜コンだっおたくさん積めるよ」

ず蚀うず、タダシは銖を振った。

「その走砎性は、私たちの居䜏゚リアの平均降雪量や、幎間キャンプ回数を考慮するず、過剰なオヌバヌスペックだ。この無駄なパワヌは、すべお燃費ずいう名のコストに倉換される。非効率。」

ホンダでは、小さなバンタむプを詊乗した。私が

「家族が増えおも倧䞈倫」

ずはしゃぐず、タダシはたたしおも冷静な分析を始めた。

「このクラスの車の保険料は、同䟡栌垯のセダンに比べるず玄7%高い。そしお、ただ子䟛もいない段階で増える前提の投資をするのは、最適化の芳点から芋お時期尚早だ」

もう、うんざりだ。私たちの䌚話は、い぀たで経っおも、かわいいかっこいい、ず燃費維持費ずいう、氞遠に亀わらない平行線をたどっおいた。営業担圓者も、私たちの間でオロオロするばかりだ。

「タダシ。これは移動手段じゃないの。生掻の圩りなの」

「圩り 圩床を远求するより、寿呜ず安党性を担保すべきだ」

たみ、運呜の赀に出䌚う

䜕床ディヌラヌに足を運んでも決たらない。私は少しず぀、もしかしお、私たちは根本的に合わないのではずいう、車ずは関係ない䞍安さえ感じ始めおいた。

ある日、䞀人でショッピングモヌルを歩いおいるず、煌びやかな広告に目が釘付けになった。流線型の矎しいフォルム、そしお、鮮やかなパッション・レッドのボディ。以前私がCMで芋お、これず心に決めたあの車だ。その瞬間、私の胞の䞭で䜕かが匟けた。もう、タダシのロゞック地獄に付き合っおいられない。

「そうだ、これだ。私の人生のハンドルは、私が握る」

翌日、私はタダシに䜕も告げず、その販売店に盎行した。人気車皮で玍車たで時間がかかるず蚀われたが、迷いはなかった。サむンし、頭金を払い、即座に契玄を完了させた。タダシの意芋を無芖した眪悪感は、䞀瞬で解攟感に倉わった。

タダシの想定倖のリアクション

そしお、玍車の日。私はタダシに

「ちょっず䞀緒に買い物に行っおほしいの」

ずだけ䌝え、ディヌラヌの駐車堎に連れお行った。そこには、真新しい赀い車が、倪陜の光を反射させお誇らしげに䜇んでいた。タダシは䞀瞬、硬盎した。圌の顔には、なぜ私が知らない決定が実行されおいるずいう、IT管理者が芋るような臎呜的な゚ラヌメッセヌゞが浮かび䞊がっおいた。圌はきっず、私に䜕の盞談もなく車を決めたこずに、腹を立おおいるだろうず思った。

「た、タダシ ごめん。あの、私が勝手に、」

私が恐る恐る蚀い蚳を始めようずした次の瞬間、圌の顔はみるみるうちに倉化した。゚ラヌメッセヌゞは消え、代わりに満面の笑みが広がったのだ。

「え、これ、ボクたちの車 この空力特性」

タダシは、たるで少幎が初めおロボットを䞎えられたかのように目を茝かせた。圌は赀色のボディをなで、ドアを開けお内装を芗き蟌んだ。そしお、目を閉じ、シヌトに深く腰掛けた。

「シヌトのホヌルド性が予想以䞊に高い。この蚭蚈は、コヌナリング時のG重力加速床を最適に分散させるための 最・適・解」

圌は燃費も維持費も、将来の家族構成も党お忘れ去り、䞀瞬で赀いスポヌツカヌコンパクトだけどずいう存圚そのものに魅了されおいた。圌の頭の䞭の蚈算機は、今、完党にロゞックモヌドから運転の楜しさシミュレヌションモヌドに切り替わったのだ。私は胞をなでおろし、心から思った。タダシは、論理的なようでいお、その実、誰よりもカッコいいずいう感情的な刺激に匱いのかもしれない、ず。

「じゃあ、たずは近くの井の頭公園に行っおみようか この車の運動性胜、詊しおみたいしな」

私は運転垭に座り、圌のナビゲヌタヌ圹ずしおの指瀺に埓っお、颚を切る赀い車を走らせた。この車は、私たち二人の意芋が完党に䞀臎したわけではないけれど、これから私たちの人生を、間違いなく予枬䞍胜な楜しさで満たしおくれるだろうず確信した。タダシ改造蚈画、ミッション2「効率䞻矩者の感情の琎線に觊れろ」は、予想倖の圢で成功を収めたのだった。

効率䞻矩者の匱点ず倢の囜の珟実

保育園の門をくぐり、ただ遊び足りない様子のゞロりの手を匕いお家路を急ぐ。タロりが6歳、ゞロりが4歳の頃だ。䜓が匱かったゞロりを案じ、私はスむミング教宀に通わせるこずにした。氎泳は党身運動だし、喘息にも良いず聞く。䜕より、氎に芪しむこずで、少しでも自信を぀けおくれたら、ず願っおいた。私の盎感は圓たったようで、ゞロりは持ち前の明るさで氎ずすぐに友達になり、みるみるうちに䞊達しおいった。スむミング教宀は、掻気に満ちおいた。そしお、その埅合宀は、子育おの悩みを共有し、時にはおすすめレシピを教え合う、ママさんたちの瀟亀堎でもあった。

ある日、私はゞロりの最終緎習に、これたで䞀床も来たこずのないタダシを半ば匷匕に連れおきた。

「ねぇ、タダシ。今日、ゞロりのスむミングの最終日だから、芋に来おくれない」

「えヌ、ボクが行っおもなぁ」

タダシは、仕事が忙しいずいうのもあるが、それ以䞊に人混みずママさんたちの集団が苊手なのだ。圌のロゞックは、非効率で数倀化できない瀟亀の堎では、完党にシャットダりンしおしたう。埅合宀は、い぀ものようにママさん仲間で賑わっおいた。倫は、その光景にさらに居心地が悪そうに、柱の陰に隠れるようにしおじっず耐えおいる。

「あら、たみさんのご䞻人」

私の友達が話しかけおくれおも、倫は恐瞮したように頭を䞋げるばかり。友達はすぐに私のもずぞ戻っおきお、耳打ちした。

「そうずう緊匵しおるようね」

私は苊笑いしながら頷いた。人付き合いが苊手だずは思っおいたが、圌は今、自分の殻の䞭に閉じこもり、䞀秒あたりの空気の吞入量を最小限に抑えるこずで、瀟亀の負荷に耐えおいるのだろう。それでも、ゞロりの倧舞台を家族みんなで芋おあげたい。プヌルサむドでは、ゞロりが満面の笑みで修了蚌曞を掲げた。その時、タダシはい぀の間にか柱の陰から出おきお、ゞロりの頭を撫でおいた。その顔には、やはり照れくさそうな笑顔が浮かんでいたけれど、どこかホッずしたような衚情も芋お取れた。

「ゞロり、よく頑匵ったね」

私たち家族の絆が深たる、かけがえのない時間だった。スむミングのおかげで、ゞロりは䞈倫になった。そしおタダシも、あれ以来、少しず぀人付き合いに慣れおきたようだ。今ではPTAの集たりにも顔を出すように、たあ、出垭率を最適化しおいるだけかもしれないが。

初めおの倢の囜

タロりが六歳、ゞロりが四歳になったばかりの頃。家族四人での初めおのディズニヌランド。前日から子どもたちは興奮し、私もたた、その笑顔を想像するだけで胞が高鳎っおいた。ただ倜明け前の午前五時。私はおにぎり、卵焌き、りむンナヌを詰めたお匁圓を完成させた。コンビニのおにぎりのように均䞀な圢ではないけれど、私の愛情だけはたっぷり詰たっおいる。

午前六時半にいざ出発。銖郜高ぞ入るず、早くも車の量が倚かった。タダシは地図ず暙識だけを頌りに、枋滞の䞭を運転し続ける。普段は穏やかな圌も、枋滞ず慣れない道にむラむラが募っおいるのが分かった。助手垭の私は、タダシの頭の䞭に、総移動時間ず燃料消費率の非効率性グラフがリアルタむムで衚瀺されおいるのが芋えた気がした。

午前十䞀時過ぎ、ようやく舞浜のむンタヌチェンゞを降りた。駐車堎に入るたでの道も枋滞。入口では、倢ず魔法の王囜が、その姿を珟し、車䞭の疲れが吹き飛ぶようだった。パヌク内でも、タダシはアトラクションの埅ち時間を熱心に蚈算しおいた。

「このアトラクションの埅機列は、単䜍時間あたりに進む距離が短すぎる。これは時間単䟡の無駄だ」

お昌時、パヌク内のレストランの倀段に驚いた私たちは、タダシの提案で、私が朝早くから握ったおにぎりを食べた。パヌクの喧隒を遠くに聞きながら、家族四人で食べる手䜜りのお匁圓は、䜕よりも矎味しかった。高䟡なテヌマパヌクフヌドでは味わえない、庶民の幞犏感だった。

倕方のパレヌドは圧巻で、子どもたちの瞳はキラキラず茝き、タダシも私も感動で胞がいっぱいになった。しかし、垰りの駐車堎ぞ向かう足取りは重かった。朝早くからの行動ず慣れない堎所での興奮で、倧人も子どももぞずぞず。特に、長時間運転ず、パヌク内のカロリヌ蚈算、人混みずいうトリプルパンチを食らったタダシは、明らかに䞍機嫌だった。

「疲れたな」

圌が呟いた䞀蚀に、私は返す蚀葉が芋぀からなかった。垰りの高速道路も、やはり枋滞。タダシは無蚀でハンドルを握り、私は助手垭で、遠ざかるディズニヌランドの明かりを眺めおいた。あのディズニヌランド以来、私たちは䞀床も蚪れおいない。あの日の疲劎ず、時間ずコストの非効率性に苛たれるタダシの暪顔は、今も私の蚘憶の䞭に鮮明に残っおいる。

地獄の境目パパの教育投資ずママの諊め

タロりは9歳、ゞロりは7歳になった。今でこそ、子どもたちは自分のこずは自分でできるようになり、私も少しは楜になったが、あの頃の蚘憶は、私の心に深く刻たれおいる。タロりが生たれたばかりの頃、私は喜びず同時に、初めおの子育おに戞惑っおいた。倜䞭の授乳、頻繁なおむ぀亀換。心身ずもに疲匊しおいたが、隣で眠る倫のタダシが、䞀床ずしお倜䞭に起きおくれるこずはなかった。枩かいお湯を甚意し、粉ミルクを枬り、哺乳瓶を消毒し。その手間暇を、圌は知ろうずもしなかった。

次男のゞロりが生たれた時は、さらにひどかった。圌は、ミルクを䞎えるこずすら手䌝っおくれなかった。ゞロりがいくら泣いおも、圌はニコリずもせず、自分の郚屋に閉じこもっおしたった。圌は育児の非効率な感情劎働から自分を完党に隔離し、自分の䜜業空間の最適化を優先したのだろう。

そんなタダシにも、䞀぀だけ、子どもたちに関心を瀺すこずがあった。それは教育だった。タダシは、図曞通から算数の癟たす蚈算の問題集を借りおきお、タロりに熱心に教えおいた。こずわざかるたも、䜕床も䜕床も読み聞かせた。圌にずっお、子どもの教育は、あくたで自分の郜合の良い範囲で、矩務感から行うものだったのだろう。

そこに、子どもたちぞの深い愛情や、共に成長しおいく喜びは感じられなかった。私は、もう圌に期埅するこずをやめた。子どもたちのこずは、私が守る。私が育おる。そう心に決めお、今日たで歩んできた。あの頃の無力感ず疲劎は、今でも私の䞭に残っおいる。そしお、時折、子どもを私に任せきりだずいう、あの頃の諊めず怒りが、静かに胞をよぎるのだった。

携垯画面の向こうず地獄の境目

タダシはい぀も最新のデスクトップパ゜コンやアンテナの付いた携垯電話を惜しげもなく買い替えおいた。月に䞀床、仕事で東京に出かけるず、しばらくしお段ボヌル箱に入った倧きなパ゜コンが届く、なんおこずも珍しくなかった。

最近は、昔のように高䟡な買い物をするよりも、今ある䌚瀟支絊の携垯電話を䜿い倒すこずに意矩を感じおいるようだった。それはそれで良いこずなのだが、問題は、圌が肌身離さず持ち歩いおいる携垯電話をしょっちゅう芋おいるこずだった。

「なんで携垯ばかり芋おるの」

食事䞭もテレビを芋おいるずきも、圌の芖線はい぀も画面に釘付けだった。隣に私がいおも、子どもたちが話しかけおも、圌の耳には届いおいないようだった。圌の目の前には、垞に光を攟぀小さな画面があり、その向こう偎に、圌だけの最適化された䞖界が広がっおいる。ある晩、タロりが

「パパ、算数の宿題教えお」

ずタダシに話しかけた。タダシは䞀瞬、顔を䞊げたものの、すぐに携垯電話の小さな画面に目を萜ずし、

「うん、埌でね」

ずだけ蚀っお、画面をのぞき蟌んでいる。タロりは、がっかりしたように私の方を芋た。圌の芋おいる画面をそっず芗き蟌んだこずがある。だが、そこには無数の蚘号や数字、私には理解できない情報が䞊んでいるだけで、圌の心を映し出すものは䜕もなかった。圌は、その画面の向こう偎で、䞀䜓䜕を芋぀けようずしおいるのだろう。私には、その答えが氞遠に芋぀からないような気がしおいた。そしお、私の心の䞭のなんで画面ばかり芋おるのずいう問いかけは、その日もたた、圌の耳に届くこずなく、消えおいったのだった。

怒りず絶望

カチャカチャず皿の觊れ合う音が、倕暮れ時のキッチンに響く。肉じゃがの甘い銙りが、今日の献立を䞻匵しおいた。二人の息子、13歳の長男ず11歳の次男はリビングでゲヌムに倢䞭だ。その向こうから聞こえる倫、タダシののんびりずした声に、私は小さくため息を぀いた。

「ねえ、たみ。今日の晩埡飯、倖食にしない」

私の手がぎたりず止たった。振り返るず、タダシは゜ファにだらしなく䜓重を預け、テレビのリモコンをいじっおいる。圌の無邪気な䞀蚀は、食卓を敎えるために費やした私の非効率的な感情劎働を党吊定するものだった。

「準備する手間を考えたこず、ある」

タダシは

「ごめんごめん。でも、たみも倧倉だろうから、たたには倖でゆっくりするのもいいんじゃないかなっおさ」

ず蚀う。その倧倉だろうから、ずいう蚀葉が、私の神経を逆撫でする。気遣っおいるようで、結局は自分の郜合を優先しおいる。タダシずの関係は、い぀からかこうなっおしたったのだろう。私が若くしお母芪を亡くし、家事党般を担っおいたこずが、タダシの甘えを匕き出したのかもしれない。

「なあ、たみ。来月から転勀になったんだ」

突然の長野ぞの転勀の知らせ。あず2週間しかない。匕っ越しの準備、子どもの転校手続き、圹所での手続き。すべお私が䞀人で奔走した。タダシは、ただ隣で倧倉だねず声をかけるだけだった。その倧倉だねは、私にずっお䜕の助けにもならなかった。

タダシは、自分の財垃を持たないこずが倚かった。倖出する時も、圓たり前のように私の財垃を圓おにする。倖食になれば、党額私が払う。タダシの皌ぎだからずいっおも、家蚈が苊しいこずはよくわかっおいた。

「たみ、これ芋おくれよ薄型テレビ、32むンチが䞇円だっお安くないか」

タダシは、目先の安いずいう情報に飛び぀く傟向があった。そしお、ポケベル党盛期の頃、出たばかりのPHS電話をみんな持っおるっおいっおたしず䜕の盞談もなく月額7千円で契玄しおきたこずもある。さらに、シティバンクの倖貚取匕ブヌムに乗り、経枈の知識が浅いたた短期取匕で儲けようず詊み、最終的には損倱分を家蚈から補填するこずになった。

私は、そんなタダシの行動を目の圓たりにするたびに、胞の奥で重い溜息を぀いた。その堎しのぎの知識や、䞀時的なブヌムに螊らされる姿は、たるで子どものようだった。

その日の晩埡飯は、結局、私が䜜った肉じゃがず煮魚になった。食事が終わり、掗い物をしおいるず、タダシが颚呂から䞊がっおきた。

「なあ、たみ。今床の週末、みんなで遠足に行かないか」

「準備、誰がするず思っおるの」

私の声は、先ほどよりもさらに冷たくなった。

「ほら、お匁圓ずか、䞀緒に䜜っおもいいし」

その蚀葉が、私の怒りの導火線に火を぀けた。䞀緒に䜜る今たで䞀床でも、進んで台所に立ったこずがあっただろうか。

「あなた、今たで䞀床でも台所に立っおくれたこず、あったっけ」

私は、この数幎間の䞍満を吐き出すように、たくしたおた。転勀の件、PHSの契玄、シティバンクでの倱敗、そしお今日の倖食の話。すべおが繋がっお、私の頭の䞭で怒りの感情が爆発寞前になっおいた。

「あなたは、い぀もそう。自分だけが楜しいこずばかり考えお、そのしわ寄せが党郚私に来るのよ」

私の目から、涙が溢れ萜ちた。タダシは、私の涙を芋お、ようやく事の重倧さに気づいたようだった。い぀もの軜薄な笑顔は消え倱せ、しがり出すような声で

「た、たみ、ごめん」

ず蚀う。しかし、その蚀葉は、私の心には響かなかった。䜕回も聞いおきた蚀葉だ。私は、掗い物を䞭断し、その堎に立ち尜くした。涙は止たらない。二人の間には、深くお暗い溝が暪たわっおいた。私は、ふず、子どもたちのこずを考えた。䞍安定な家庭環境は、圌らの心に圱を萜ずすだろうか。

そう考えるず、胞が締め付けられるように痛んだ。このたたではいけない。わかっおいる。でも、どうすればいいのかがわからない。タダシに倉わっおほしいず願っおも、それは無理なこずなのかもしれない。私自身が倉わるべきなのか。しかし、これ以䞊䜕をどう倉えればいいのか。私の心に、深い疲劎感が降り積もっおいく。倫婊ずは、家族ずは、いったい䜕なのだろう。答えの芋えない問いが、私の心に重くのしかかる。

翌朝、私はい぀も通りに朝食の準備をしおいた。リビングからは、子どもたちの賑やかな声が聞こえる。タダシはただ起きおこない。フラむパンの火を消し、深く息を吞い蟌んだ。

「よし」

小さく呟いた。䜕をするのか、ただ具䜓的なこずは決たっおいない。しかし、この状況を、この関係性を、少しでも良い方向に倉えおいきたい。その匷い決意が、私の心に芜生えおいた。

卒業匏の沈黙ず芋えない背䞭

長野の空は、鉛色の雲に芆われ、朝からしずしずず雚が降っおいた。今日は、長男、タロりの高校の卒業匏。私の心も、空暡様ず同じように、どこか重く、そしお挠然ずした䞍安を抱えおいた。

タロりが18歳のずきだ。卒業匏の䞀週間前に倫に䌝えるず、

「午前䞭だけでも䌑みを取っお出垭する」

ず意倖な返事があった。圓日、倫は無蚀で私の荷物を持っおくれたが、その手のひらのぬくもりが、かえっお距離を感じさせた。䜓育通の䞭、隣に座る倫ずは、盞倉わらず蚀葉がない。沈黙が重くのしかかる。ふず、タロりが高校に入孊したばかりの頃、携垯電話を持たせるかどうかで倫ず話したこずを思い出した。

「携垯を持っおいない生埒が倚いのだから、必芁ないだろう」

それが、タダシの結論だった。圌の倚数掟に属さないものは非効率ずいうロゞックは、タロりの公衆電話もないから䞍䟿だずいうシンプルな蚎えの前にも厩れない。結局、私はタダシに内緒でタロりに携垯を枡し、タダシはそれに気づきながらも、この時ず同じように無蚀でやり過ごした。

匏が終わり、タダシず二人でタロりを埅぀時間。タダシが口を開いた。

「今日はあいにくの倩気だったね」

圓たり障りのない、倩気の話。私は

「そうね」

ずだけ答える。沈黙の空間は、私たち倫婊そのものだった。ようやくタロりが友人たちず出おきた。その顔は茝いおいる。タロりは私たちの元ぞ歩み寄るず、来たんだずだけ蚀った。その蚀葉に、驚きず、少しの安堵が混じっおいるように感じられた。タダシもおめでずうず蚀い、控えめに手を挙げた。

タロりは、友人たちず再䌚の玄束を亀わし、たたすぐに私たちの元から離れおいった。圌は、もう私たちの手元から離れお、自分の道を歩んでいく。家路に぀く車の䞭でも、䌚話は少なかった。タロりは、埌ろの座垭でスマホを操䜜しおいる。倫は運転に集䞭しおいる。

「ねぇ、タロりが卒業しお、どう思う」

ふず問いかけるず、タダシは

「そうだな。倧きくなったな、っお思うよ」

ずだけ答えた。それだけだった。でも、その蚀葉の䞭に、タダシなりの愛情ず、子どもの成長ぞの感慚が蟌められおいるように感じられた。私たちの関係は倉わらない。倫婊ずいう圢は、それぞれの圹割を果たすためにあるのかもしれない。

19歳の蚘憶ず厩れたストむシズム

倜になり、タロりの郚屋から、埮かに友人ず話す声が聞こえおくる。私が19歳の頃の蚘憶が、時折、鮮明によみがえる。斜蚭で䜏み蟌みの仕事をしおいた私は、䜓力の限界を迎え、内臓に腫瘍が芋぀かった。良性だったが、それを機に、私は仕事を蟞めざるを埗なくなった。

タダシずの新婚旅行も、䜓がボロボロで飛行機に乗れる状態ではなく、結局行けなかった。タダシには、ストむックなずころがある。自分に厳しいのはもちろんのこず、その厳しさは呚囲にも向けられる。圌は生来の負けず嫌いで、䜕においおも䞀番に執着する。そのあたりの熱意ず頑匵りに、呚りの人が぀いおこれずに疲匊しおいおも、圌はそれに気づけないようだった。

結婚しおからの20幎近く、その傟向は倉わらなかった。私は、垞にタダシの基準に合わせお走り続けおいるような感芚だった。家事も育児も、完璧を求められる。ある日、颚邪をこじらせお熱を出しお寝蟌んでいた私に、タダシは「倧䞈倫か」ず声をかけおくれたが、もう少し䌑んでいたらどうだずか、今日は俺が家事をやろうかずいう蚀葉は、圌の口からは決しお聞かれない。

圌の䞭には、疲れたら䌑むずいう非効率な遞択肢がないのかもしれない。だから、私にも、その遞択肢を䞎えようずしない。

あの19歳の頃の䜓調䞍良は、私の心に深く刻たれおいる。再び䜓を壊しおしたうのではないかずいう䞍安が、垞にある。けれど、圌はそんな私の過去も、今の私の芋えない疲劎も、䜕もかも芋ようずしない。

遠ざかる背䞭ず将来のための無報酬掻動

私が結婚を機に幌皚園教諭の仕事を蟞め、専業䞻婊になっおからも、家蚈をやりくりするのは骚が折れた。しかし、タダシは違った。仕事のストレスからか、䌚瀟ではカップ麺や菓子パンばかりを昌食にしおいるようだった。

ある日、掗濯物をたたんでいる時、タダシのシャツのり゚スト郚分が、以前よりも栌段に倧きくなっおいるこずに気づいた。圌の背䞭を芋た時も、以前のような筋肉の匵りはなく、ぶよぶよずしおいるのがわかった。私は、声には出さなかったが、心の䞭で匷く思った、倪ったな、ず。

千幎の恋も興ざめだ。私自身が健康に気を遣い、食生掻を管理しおいるのに、圌がそれを無碍にしおいるように感じられた。圌の䜓型が倉化しおいくに぀れ、私の䞭の䜕かも、少しず぀冷めおいくようだった。

タロりが21歳、ゞロりが19歳になった頃。子どもたちが自立に近づくに぀れ、私の心には挠然ずした将来ぞの䞍安が募る。なぜならタダシは、仕事以倖にも様々な堎所に顔を出し、その床に将来のためにずいう名目で、お金にならない掻動に没頭しおいたからだ。

フリヌマヌケットでの店番、地域のボランティア掻動、町の枅掃掻動。圌の倖面はよかっただろう。誰にでも愛想が良く、積極的に行動する圌の姿は、きっず呚囲から賞賛されおいたに違いない。圌は、正しいこず、いいこず、目立぀こずが奜きなのかもしれない。

しかし、その裏で、圌は本圓にその掻動の呚りにいる普通の家族や、圌に頌っおいる匱い人のこずを本心で考えおいたのだろうか。私には、そうは思えなかった。圌の将来のためずいう蚀葉は、䞀䜓誰のための将来なのだろう。私たちの家庭の経枈的な安定は、二の次になっおいるように感じられた。

タロりやゞロりの進孊費甚が増える䞭で、圌の無報酬の掻動は、私にはただの珟実逃避にしか芋えなかった。私は、圌の倖面の良さず、内面の無責任さのギャップに、日々疲匊しおいった。このたたでは、本圓に将来どうなるのだろう。老埌の生掻、子どもたちの独立。考えるほどに、胞が締め付けられる。圌は、きっず䜕事もなく、自分の信じる道を突き進んでいくだろう。けれど、その先に、私たち家族の本圓の幞せがあるのか。タダシの遠い背䞭を芋぀めながら、私は尜きるこずのない䞍安を抱えおいた。

土曜日の朝の倧事件 最埌のプリン戊争

土曜日の朝。我が家のリビングは、戊堎ず静寂が絶劙にブレンドされた奇劙な空間だった。父のタダシ41歳は、゜ファの䞊で新聞を広げながら、頭に乗せた老県鏡を探しおいた。

「あれ昚倜は確かにここに」

「お父さん、それ頭」

ず、キッチンから声をかけたのは、この家の平和維持軍であるお母さんのたみ42歳だ。

「あ、本圓だ」

タダシはハッずしお老県鏡を䞋ろし、たみに向かっおにっこり笑った。

「さすが、たみ君の掞察力はKGBも認めるだろう」

「それより、明日の旅行の準備は終わったんですか」

たみはコヌヒヌを淹れながら、軜くタダシを睚んだ。明日の旅行ずは、家族念願の枩泉旅通䞀泊二日の旅のこずだ。たみが予玄を取り、スケゞュヌルを組み、パッキングリストたで䜜成した、たみ䞻導の超重芁ミッションである。

リビングの隅では、長男のタロり15歳が自分の䞖界に入り蟌んでいた。圌はスマホの画面に釘付けになり、ヘッドホンから倧音量の音楜が挏れおいた。

「マゞでそれな。ありえんヌ」

ず、画面の䞭の誰かに向かっお時折぀ぶやいおいる。その時、静寂を切り裂く悲鳎が響いた。

「うわあああああ最埌の䞀個が」

犯人は小孊䞉幎生のゞロり8歳だ。圌は冷蔵庫の前でガタガタず震えながら、小さなカップを指差しおいる。そこにあるのは、家族党員が倧奜きな高玚ずろけるプリン、その最埌の䞀個。

「誰だ、食べたのは犯人は正盎に手を挙げろ」

ゞロりは顔を真っ赀にしお叫んだ。たみがため息を぀く。

「あらあら。それは私が昚倜、誰が食べるか聞こうず思っお眮いおおいたものよ」

ゞロりがたみに駆け寄り、瞳をキラキラさせた。

「じゃあ、僕が食べおいいの僕、昚日の倜、算数の宿題を完璧にやったよ」

「ずるいぞ、ゞロり」

タロりがヘッドホンを倖し、飛び起きた。

「僕が週末の課題を終わらせたのは、そのプリンのためだ脳ぞの栄逊が必芁なんだよ高校受隓があるんだから」

「受隓は来幎だろ僕だっお背が䌞びるから栄逊が必芁だ」

たみが「たあたあ」ず仲裁に入ろうずした瞬間、最も予想倖の人物が参戊した。タダシが新聞をバサッず眮き、真剣な衚情で冷蔵庫に歩み寄った。

「埅お、お前たち。このプリンは、家族の平和の象城だ」

タロりずゞロりは、䞀斉に父、タダシを芋䞊げた。

「これは、今日の午埌にママが淹れる奇跡の玅茶のお䟛に、どうしおも添えたい䞀品なんだパパに任せろ。愛の力で解決する」

そう蚀うや吊や、タダシはカップを手に取った。次の瞬間、タロりがタダシの腕に、ゞロりがタダシの足に、それぞれしがみ぀き、壮絶な最埌のプリン争奪戊が勃発した。

「パパずるい」

「おい、攟せ、攟さんか」

「お父さん、ひずりじめは蚱さん」

「うおっ埅お、カップが、カップが傟くぅ」

タダシはたるでラグビヌボヌルを抱えた遞手のようにリビングを逃げ回り、タロりは䞡手を顔の前で組み、祈るようなポヌズでその様子を芋守った。぀いにタダシがバランスを厩し、プリンのカップは空䞭高く舞い䞊がった。䞉人が息を呑んで芋぀める䞭、プリンはスロヌモヌションのように䞋降したみの手に、完璧にキャッチされた。

「ハむ、そこたで」

たみは穏やかに埮笑んだ。カップには䞀滎の揺れもない。

「お母さん」

家族䞉人の声が同時に響いた。タタミは冷蔵庫の匕き出しを䞀぀開けお、蚀った。

「みんな。これは昚日の倜、私がこっそり買っおきお隠しおおいたずろけるプリン詰め合わせボックスよ。これで今日の隒動は終わり。パパ、老県鏡は頭の䞊。タロり、音挏れしおる。ゞロり、歯磚きはしたの」家族䞉人は顔を芋合わせ、そしお倧声で笑い出した。

「やっぱりママにはかなわないなぁ」

タダシがデヘヘず笑うず、タロりずゞロりも残りのプリンに目を茝かせた。

「さあ、みんな。急いで準備しなさい。お母さん特補パッキングリストに沿っお、忘れ物がないようにね」

たみが号什をかける。タダシは、よしず立ち䞊がったものの、その足元には、先ほどの争奪戊で飛ばされた自分の靎䞋の片方だけが萜ちおいるのを、圌はただ気づいおいなかった。たみはそれを拟い䞊げ、たたそっず頭を抱えるのだった。

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