
山形県山形市の郊外、蔵王の山並みを遠くに望む静かな住宅地に、一人のお母さんが暮らしていました。そのお母さんには、障がいのある男の子がいました。みんなが待ち望む長い夏休みが始まると、町はにぎやかに色づきます。けれど、その親子にとっては、夏休みは憂鬱の季節でした。
学校がないなら、自分で作っちゃおう!母の爆発的なひらめき
男の子は市内の特別支援学校に通っていましたが、夏休みになると学校が閉まり、友達とも会えなくなります。お母さんは一日中、彼の遊び相手にならなければならず、心も体もすり減っていくような日々が続いていました。
「こんな夏、もういやだ」
そう思っていたある日の午後。蝉の声が遠くで鳴いていた頃、お母さんはふと立ち止まり、ぽつりとつぶやきました。
「そうだわっ!夏休みの間、同じように困っている子どもたちやお母さんたちに声をかけて、みんなで学校をつくっちゃおう!」
そのひらめきは、まるで雷が落ちたような衝撃でした。前年、山形市の七日町地区で似たような活動があったことを思い出し、彼女はすぐに動き出しました。
山形市社会福祉協議会に相談し、近隣の高校生、民生委員、幼稚園の先生、ボーイスカウトのリーダーたちにも声をかけました。最初は誰もが半信半疑でしたが、彼女の情熱に心を動かされ、少しずつ仲間が集まってきました。
そして迎えた第一日目。
なんと、集まった子どもたちは50人以上!ボランティアや民生委員も20人を超え、会場の山形市総合福祉センターは、笑い声と驚きで満ちあふれました。
プログラムは一応用意していたものの、子どもたちは自由奔放。突然姿を消したと思えば、近くの電器屋さんに社会見学に行っていたり、プールでは民生委員が子どもに突き落とされたり、川べりではお弁当を放り出して服のまま水遊びを始めたり。毎日がハプニングの連続でした。
でも、そんな予測不能な日々が、かえってみんなの心を近づけていったのです。
予算ゼロ、ボランティア20人。山形市総合福祉センターが笑い声で揺れた日
あの夏の即席学校から、2年の月日が流れました
山形の四季は、まるで絵本のページをめくるように鮮やかに移り変わります。あの夏に出会った子どもたちとボランティアたちは、秋には落ち葉を踏みしめながら遠足に出かけ、冬には雪の中でそり遊びをし、春には霞城公園でお花見を楽しみました。
活動は自然と広がり、気づけば月に一度の定例会、季節ごとの休み学級、土曜保育の支援などが定着していました。けれど、仲間たちはそれだけでは満足しませんでした。
「頼まれたときだけ動くんじゃなくて、自分たちでおもしろくて、あったかいまちをつくっていこうよ!」
そんな声があがり、最初に企画されたのがキャンプでした。場所は蔵王のふもと、地元の農家さんが貸してくれた広い原っぱ。テントを張り、焚き火を囲み、子どもたちと歌い、笑い、星を見上げた夜。その体験は、参加者全員の心に深く刻まれました。
その夜、焚き火の炎を見つめながら、ひとりの青年ボランティアがぽつりとつぶやきました。
「なんかさ、俺たちって、ちょっとした魔法使いみたいじゃない?」
「魔法使い?」
「うん。子どもたちのつまんないをたのしいに変えるんだもん。しかも、でっかい魔神みたいに、どーんと構えてさ。」
その言葉に、みんなが笑いました。そして、翌朝にはもう決まっていました。
NPO法人だいまじん
名前の由来は、子どもたちの笑顔を守るでっかくて、やさしい魔神。ちょっとふざけてるようで、でも本気で、どこか頼もしい。そんな私たちの姿そのものでした。
街中を駆け回る子どもたち、それを追いかけるボランティア
だいまじんが誕生してからというもの、山形市はちょっとだけにぎやかになりました。
いや、ちょっとどころじゃありません。毎週末になると、どこからともなく子どもたちの笑い声が聞こえてくる。公園では、ボランティアのお兄さんが段ボールで作っただいまじんに乗せられて全力疾走。川べりでは、子どもたちが「水切り大会だー!」と叫びながら、石を投げては自分も飛び込む始末。
「ちょっと待って!服着たままはダメー!」と叫ぶお母さんの声も、もはや夏の風物詩。
活動はどんどん広がっていきました。冬には、みんなでサンタに変装してプレゼントを持って訪問したり、雪山を貸し切ってスノーボートで大騒ぎしたり。春には「だいまじん花見遠足」と称して、霞城公園にてお弁当とシャボン玉大会。秋には焼き芋と落ち葉アート祭り。なんでも祭りにしてしまうのが、だいまじん流。
そして、ある日——
「ねえ、旅行ってどう?」
「いいね!九州とか四国とか、行っちゃう?」
「え、遠すぎない?」
「だいまじんに距離の概念はない!」
そんなノリで、ついに一泊二日のだいまじん大冒険ツアーが始まりました。バスの中ではカラオケ大会、宿では枕投げ選手権、帰りの車内では全員爆睡。でも、帰ってきた子どもたちの顔は、どこか誇らしげでした。
「ぼく、旅したんだよ。」
その一言に、ボランティアたちは胸がいっぱいになりました。
町内会のおじいちゃんたちを巻き込んだ廃品回収
ある日、だいまじんのメンバーが集まる定例会で、ひとりのボランティアがぽつりとつぶやきました。
「ねえ、町内会の廃品回収って、けっこう大変らしいよ。おじいちゃんたちが毎回がんばってるんだって。」
「えっ、あの資源ごみの日?第2と第4月曜日のやつ?」
「そうそう。段ボールとか空き缶とか、分別してリサイクル工場に持っていくと、ちょっとだけどお金になるらしいよ。」
「えー!それって、だいまじんの出番じゃない?」
というわけで、次の月曜日。だいまじんの子どもたちとボランティアは、軍手をはめて町内をぐるぐる回り始めました。
「おばちゃーん!段ボール、ここに置いてくださーい!」
「空き缶はこっちの袋にお願いしまーす!」
最初はぎこちなかったけれど、回を重ねるごとに手際もよくなり、ついにはリサイクル工場へ持ち込んで、なんと4千円の収益に!
「えっ、これって、おこづかい?」
「いやいや、町内会の活動費だよ。でも、ちょっとだけジュース買ってもいいかもね?」
その日から、町内会のおじいちゃんたちは、荷物運びを子どもたちに任せて、のんびりと見守る係に。
「おーい、そっちはペットボトルだぞー!」
「おじいちゃん、見ててねー!」
そしてある日、回収が終わったあと、おじいちゃんのひとりが言いました。
「よかったら、うちに遊びに来ないか?」
それがきっかけで、子どもたちはおじいちゃんたちの家に招かれるようになり、囲碁を教えてもらったり、昔の話を聞いたり、時には算数の宿題を見てもらったり。
「おじいちゃん、九九ってどうやって覚えたの?」
「そりゃあな、昔はににんがしって言ってたんだぞ。」
「えー!なんか呪文みたい!」
町内会とだいまじんの距離は、ぐっと近づきました。世代を越えて、笑い声がつながっていく、それは、だいまじんが目指していたあったかくておもしろいまちの、まさに一歩でした。
(つづく)次回、伝説の竹林におじいちゃん魔法使いが現れる!?











