信介のゆるい人生相談室をお届けいたします。長岡市のゆるい空気と信介のゆるさが相談者の気持ちを自然に溶かしていく(?)様子をお楽しみください。
長岡駅の前ベンチ
信介はいつものように缶コーヒーを開け、空を見上げていた。
「さて。今日もなんとかなるわ」
すると、見知らぬ青年が近づいてきた。黒いリュックを背負い、どこか落ち着かない顔をしている。
「すみません。なんとかなるおじさんですよね?」
(またその呼び名か)
信介は苦笑した。
「まあ、そう呼ばれてるらしいな」
青年は深々と頭を下げた。
「相談、聞いてもらえませんか」
「いいよ。座りなせ」
青年は隣に座り、ため息をついた。
「僕。25歳なんですけど、やりたいことが見つからなくて」
「ほう」
「周りはみんな夢とか目標とかあって。僕だけ何もなくて焦ってしまって」
信介は缶コーヒーを一口飲んだ。
「夢なんて、なくても死なんぞ」
青年は目を丸くした。
「え?」
「俺なんて60まで夢なかったし。気づいたら定年だったわ」
青年は思わず吹き出した。
「でも。夢がないとダメって言われてきて」
「誰に?」
「親とか、学校とか。」
信介はうなずいた。
「俺も言われたわ。夢を持て努力しろってな」
「じゃあ、どうして今そんなにゆるいんですか?」
信介は笑った。
「夢を持っても持たなくても、人生は勝手に進むからだて」
青年はぽかんとした。信介は続けた。
「やりたいことなんて、探して見つかるもんじゃない。勝手に向こうから来るんだわ」
「向こうから?」
「そうだて。興味がちょっと動いたら、それがやりたいことの種だわ」
青年は考え込んだ。
「でも。僕、興味が動くこともなくて」
信介は言った。
「じゃあ、動くまでぼーっとしてればいい」
「ぼーっと?」
「ぼーっとしてると、勝手に心が動くんだわ。焦ってると、心の声が聞こえん」
青年は静かに息を吐いた。
「ぼーっとしていいんですか」
「いいよ。むしろ必要だて」
信介は空を見上げた。
「人生はな、頑張るより抜く方が難しいんだわ。抜いてるときに、やりたいことが勝手に顔出す」
青年はゆっくりうなずいた。しばらく沈黙が続いたあと、青年がぽつりと言った。
「本当は、写真が好きなんです」
「ほう」
「でも、仕事にできるほど上手くないし。趣味で終わるなら意味ないかなって」
信介は笑った。
「趣味で終わることに意味がないって、誰が決めた?」
青年はハッとした顔をした。
「写真が好きなら、それで十分だて。好きなことは、好きなだけで価値があるんだわ」
青年の目が少し潤んだ。
「そんなふうに言われたの、初めてです」
「みんな夢を仕事にしろって言うけどな、仕事にした途端つまらなくなることもあるんだわ」
青年は笑った。
「確かに」
信介は続けた。
「好きなことは、好きなままでいい。それが一番長続きする」
青年は深くうなずいた。青年は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「なんか。心が軽くなりました」
「よかったな」
「今日、帰りにカメラ屋寄ってみます」
「いいね。興味が動いたら、それが正解だて」
青年は笑顔で言った。
「なんとかなる気がしてきました」
信介は缶コーヒーを掲げた。
「なんとかなるわ」
青年は軽やかな足取りで去っていった。
青年が見えなくなると、信介はベンチにもたれた。
(やりたいことなんて、焦って探すもんじゃない。心が勝手に動くのを待てばいい)
長岡の風が、信介の頬を優しく撫でた。
「さて。俺もそろそろ帰るか。今日もなんとかなる一日だったわ」
信介は立ち上がり、ゆっくりと家路についた。
恋愛がうまくいかない女性
長岡駅前のベンチ。信介は缶コーヒーを開け、空を見上げていた。
「さて。今日もなんとかなるわ」
すると、ヒールの音を響かせながら女性が近づいてきた。30代前半、スーツ姿、明らかに気合いが入っているタイプだ。
「すみません。あなたがなんとかなるおじさんですか?」
(またその呼び名か)
信介は苦笑した。
「まあ、そう呼ばれてるらしいな」
女性は深々と頭を下げた。
「恋愛相談、聞いてください!」
「火事か?」
「火事じゃありません!」
女性は名を由紀と言った。
「私、恋愛が全然続かないんです。3ヶ月で終わるんです。毎回!」
「3ヶ月。短距離走だな」
「そうなんです!最初はいいんですけど、だんだん相手が冷めていくんです!」
信介は缶コーヒーをすすりながら言った。
「由紀さん、恋愛で頑張りすぎてないか?」
「頑張ってます!全力で!」
「全力でやる恋愛は、だいたい息切れするんだわ」
由紀は目を丸くした。
「息切れ?」
「そうだて。恋愛はマラソンなのに、最初から全力疾走したら倒れるわ」
「あ、心当たりあります」
「だろ?」
由紀は指を折りながら言った。
- 相手の好みに合わせる
- 毎日連絡する
- 相手の好きな店を全部調べる
- 相手の趣味を勉強する
- 相手のSNSを全部チェックする
- 相手の友達のSNSもチェックする
- 相手の元カノのSNSも…
信介は止めた。
「ストーカーの一歩手前だて」
「ですよね!」
「気づいてるなら大丈夫だわ」
信介は言った。
「由紀さん、恋愛はな、頑張らない練習から始めた方がいい」
「頑張らない?」
「そうだて。頑張らんでも続く相手が、本物だわ」
由紀は眉をひそめた。
「でも、頑張らないと嫌われません?」
「嫌われる相手とは、頑張っても続かん」
「!」
「無理に好かれようとすると、本来の自分がどっか行ってしまうんだわ」
由紀はハッとした顔をした。
「確かに、毎回本来の自分が迷子になってました」
「迷子になったら恋愛は終わる」
「終わってました!」
信介はうなずいた。
「だから、由紀さんは抜いて生きる恋愛をしたらいい」
「抜いて?」
「そうだて」
- 連絡は気が向いたとき
- 会いたいときだけ会う
- 嫌なことは嫌と言う
- 無理に合わせない
- 疲れたら休む
「これでいい」
由紀は目を潤ませた。
「そんな恋愛。したことないです」
「じゃあ、これからすればいい」
しばらく沈黙したあと、由紀はぽつりと言った。
「本当は、頑張らなくても一緒にいられる人がほしいんです」
信介は笑った。
「それが本音だて」
「でも、そんな人いるんでしょうか」
「いるよ。ただ、頑張りすぎてると見えんだけだわ」
由紀は深呼吸した。
「私、今日から頑張らない恋愛してみます」
「いいね」
「でも、頑張らないって、どうやるんですか?」
信介は言った。
「まずは、今日帰ったら元カノのSNSチェックをやめる」
「やめます!」
「次に、相手の好みに合わせるのをやめる」
「やめます!」
「最後に、相手の返信速度で不安になるのをやめる」
「それは難しいです!」
「難しいことからやる必要はない。
簡単なことから抜けばいいんだわ」
由紀は笑った。
「なんか、恋愛ってもっと気楽でいいんですね」
「気楽じゃない恋愛は、だいたい続かん」
由紀は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「信介さん。私、今日から抜いて生きる恋愛します!」
「それが一番だて」
「なんとかなる気がしてきました!」
信介は缶コーヒーを掲げた。
「なんとかなるわ」
由紀は軽やかな足取りで去っていった。由紀が見えなくなると、信介はベンチにもたれた。
(恋愛も人生も、力を抜いた方がうまくいくんだわ)
長岡の風が、信介の頬を優しく撫でた。
「さて。今日もなんとかなる一日だったわ」
信介は立ち上がり、ゆっくりと家路についた。

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