
商社勤めのリュウタ(47歳)は、最近どうも社内で浮いている。いや、悪い意味ではない。むしろ若々しいという、ありがたいような、くすぐったいような評価で浮いているのだ。こちらの記事の続きです。
商社マンのリュウタの秘密
「リュウタさん、今日も肌ツヤいいっすね」
「え、また?」
「なんか同じ47歳とは思えないんですよね。僕なんて昨日から肩が上がらなくて」
「それはお大事に」
周囲の同僚たちは、朝から疲労の自慢大会。
「寝ても疲れが取れない」「腰が痛い」「目がかすむ」など、まるで健康番組の視聴者投稿コーナーのようだ。
そんな中、リュウタだけは妙に元気。
午後の会議でも目がぱっちり、昼食後の眠気もほとんどない。
しかし本人は、特別な運動をしているわけでもない。
スポーツジムの会員証は財布の奥で10年の眠りにつき、ランニングシューズは新品のまま玄関で化石化している。
家に帰ると、タツコの健康仕込み
その日の夜。
玄関を開けると、キッチンからタツコの声が飛んできた。
「おかえりー。今日も若々しいって言われた?」
「なんで知ってるの」
「だって、あなた最近ずっと言われてるじゃない」
「いや、俺、別に何もしてないんだけど」
タツコはフライパンを振りながら、にやりと笑う。
「してるわよ。毎日、私の料理を食べてる」
「それはありがたいけど」
「あと、サプリを1日3回に分けて飲んでる」
「それはまぁ」
リュウタは、10年前のあの日を思い出す。
こんなに!?
結婚して間もない頃。
タツコが突然、手のひらいっぱいのサプリを差し出してきた。
「はい、今日からこれを召し上がれ」
「え、タツコこれ全部?」
「全部よ。だって1日分だもの」
「いやいやいや、これ、俺の口のサイズ知ってる?」
「知ってるわよ。だから3回に分けて摂ればいいのよ」
「3回?」
「まとめて摂っても流れちゃうから」
「流れる?」
「そう、流れる」
「なんか排水溝みたいに言うね」
タツコは真顔でうなずいた。
「食品由来のサプリだから、体に優しいのよ。合成ビタミンは選ばない主義なの」
「へぇ(そんな主義があるのか)」
結局、タツコの流れる理論が妙に説得力を持ち、リュウタはサプリを摂り始めた。
土曜の図書館デート
翌週の土曜日。
2人はいつものように図書館へ向かう。
「ねぇリュウタ、この本にも栄養補助食品は小分けがいいって書いてある」
「また小分け推し」
「だって流れてしまうから」
「その流れるって表現、そろそろ特許取れるんじゃない」
「じゃあ申請してみようかしら」
「いや、冗談だからね」
タツコは料理本や健康本を、リュウタは歴史やビジネス書を借りる。
図書館の静けさの中で、2人の会話だけが妙に生活感を放っている。
帰り道のコーヒーショップでも、タツコは新しいサプリ情報を披露する。
「このメーカー、食品由来なんだって」
「へぇ、じゃあ、いいのかな?」
「そうでしょ。あなた、若々しいって言われるのも当然よ」
「なんか俺、育てられてる?」
「もちろん。私の健康プロジェクトの中心人物よ」
「プロジェクト?」
10年続けた
気づけば10年。
サプリを3回に分けて摂ることも、タツコの料理を味わうことも、図書館に行くことも、すべてが生活の一部になった。
そして今、職場で「若いね」と言われるたびに、リュウタは心の中でつぶやく。
タツコのおかげだなぁ
ただし本人は言わない。
言ったらタツコが絶対こう言うからだ。
「でしょ? 私のプロジェクト成功よね!」
支店長の仕事
郡山市の支店長に就任したリョウタは、着任初日から市内を車で回っていた。
震災から年月は経っているが、当時窓ガラスが割れ、大きな被害を受けたホテルがまだ修繕の跡を残している。
「ここ、震災のとき大変だったんだって」
「へぇ歴史を感じるなぁ」
「歴史って言い方やめて。まだ現役のホテルなんだから」
「ごめん」
タツコのツッコミは、いつも絶妙に刺さる。
支店長になったせいで、東京本社への出張が増えた。
会議のたびに泊まるのは、門前仲町の定宿ホテル。
チェックインすると、フロントの人がにこやかに言う。
「いつもありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ(また来たよ俺)」
部屋に入ると、リュウタはスーツを脱ぎながらため息をつく。
「はぁ支店長って、もっとこう華やかな仕事かと思ってた」
と独り言を言った瞬間、スマホが鳴った。
「もしもし、タツコ?」
「華やかって何よ。あなた、会議で座ってるだけでしょ」
「いや、座ってるだけじゃないよ。ちゃんと聞いてる」
「それ、華やかじゃないわね」
「うん」
夕食はなるべく安く済ませたい。
そこでリュウタが編み出したのが、
カップラーメン+サラダ+チキンサラダの三点セットだ。
コンビニの袋を開けながら、リュウタはつぶやく。
「これでバランスは完璧のはず」
そこへまたタツコから電話。
「晩ごはん何食べたの?」
「カップラーメンとサラダとチキンサラダ」
「サラダ2回言ったよね?」
「いや、サラダはサラダでも種類が違うよ」
『バランス取ってるつもり?」
「つもりじゃなくて、バランス取ってるんだよ」
『まぁ、いいけど』
タツコは呆れながらも、声が少し笑っていた。
翌朝。
リュウタはホテルの洗面台で、タツコが作ってくれた3回分サプリセットを取り出した。
「朝の分これとこれとこれ。うん、タツコの仕分け通り完璧だ」
そこへ、またスマホが鳴る。
『サプリは?』
「今飲むところ」
「あのね、サプリは薬じゃないの。飲んだじゃなくて、摂ったというのよ」
「あ、うん、サプリ、食べるよ、これから」
『素直じゃないわね。これから?電話はサプリのあとに出なさいよ』
「いや、タイミングが」
『あなた、サプリは摂るもの。眺めるものじゃないの』
「はい」
ホテルの部屋で妻に叱られる支店長。
なんとも言えない光景だった。
売上3倍
その日の午後、本社で全支店長が集まる会議が開かれた。
社長が壇上に立ち、開口一番こう言った。
「全社の売上を3倍にします。考えるのはあなたたち支店長の役目です」
会議室が一瞬で静まり返る。
「3倍?」
「いやいやいや、無理でしょ」
「どうやって?」
「夢物語だよ」
支店長たちがざわつく中、リュウタだけは腕を組んで、
「ムムム。それはおもしろそうだ」
と、なぜかワクワクしていた。
隣の支店長が小声で言う。
「え、リュウタさん、楽しんでる?」
「うん。なんか、パズルみたいで」
「いや、パズルじゃないからね、これ」
「でも、3倍ってやりがいあるよね」
「前向きすぎるよ!」
周囲が「無理だ」「できるわけない」と言い合う中、
リュウタだけは妙に前向きだった。
会議後の新幹線。
リュウタは駅弁を食べながら、ノートを開いていた。
「3倍。3倍か。どうやったら?」
そこへタツコからメッセージ。
『会議どうだった?』
「売上3倍だって」
『え、3倍?』
「そう。みんな無理って言ってた」
『あなたは?』
「おもしろそうって思った」
『あなた、ほんと好きね、そういうの』
タツコの呆れ半分・誇り半分のメッセージに、リュウタは少し笑った。
支店長としての責任、出張の孤独、節約ごはん、そして社長の無茶ぶり。
そのすべてを前向きに受け止めるリュウタ。
彼の胸の中には、ひとつの思いが芽生えていた。
3倍、やってやろうじゃないか
その表情は、まるで少年のように輝いていた。
なにかないか?
郡山に戻ったリュウタは、スーツを脱ぐより先にデスクの電話を手に取った。
会議で社長が放った「売上3倍」という無茶ぶりが、頭の中でぐるぐる回っていたのだ。
「うーん。これは。誰かに聞いてみるか」
まず電話したのは、仙台営業所の同期・前田所長。
プルルルル
ガチャ。
「もしもし、前田所長?郡山の根岸です」
「根岸所長、なにかありましたか?」
「いや、なんでもないんだ」
「なんでもないなら電話してくるなよ」
「いやいや、ちょっと聞きたいことがあってさ」
「ほら来た。本題どうぞ」
リュウタは咳払いをして切り出した。
「この前の会議の宿題、どうしようか? なんかアイデアありそう?」
「売上3倍の話?」
「そう、それ」
前田所長は深いため息をついた。
「今でこそ200億円を維持するのに四苦八苦してるのに、3倍ってどうしたもんだろうね」
「うんうん」
「いや、うんうんじゃなくてさ。無理だよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ!」
前田所長の声は、もはや悲鳴に近かった。
前田所長との通話を終えると、リュウタはすぐに北海道支店の先輩・斎藤支店長へ電話した。
プルルルル
ガチャ。
「おう、リュウタ。どうした?」
「いや、ちょっと聞きたくて」
「また売上3倍の話か?」
「え、なんでわかるんですか」
「岡山の元田支店長からも電話あったよ。みんな困ってんだよ」
斎藤支店長は苦笑しながら続けた。
「原料の小麦粉が値下がりしてるから、値段を上げる理由にもなりにくいしな」
「なるほど」
「それに、派遣を積極的に使って人件費を浮かしてるのに、いまどき値上げなんて言えないし」
「うんうん」
「いや、うんうんじゃなくてさ。無理なんだよ」
「そうですかねぇ」
「そうだって!」
斎藤支店長の声も、どこか遠い空を見つめているようだった。
次に電話したのは、宮崎の戸田所長。
プルルルル
ガチャ。
「はい、戸田です」
「戸田さん、リュウタです」
「おう、どうした?」
「売上3倍の件なんですけど」
「あー」
戸田所長は電話越しに、頭を抱えている気配を漂わせた。
「いまどき冷凍食品を3倍売るなんて無理なんだよね。競合他社だっているわけだし」
「ふむふむ」
「いや、ふむふむじゃなくてさ。無理なのよ」
「そうですかねぇ」
「そうだって!」
宮崎の空気まで重くなるようなため息が聞こえた。
3人の所長から返ってきたのは、
・無理
・できない
・理由はいくらでもある
という後ろ向きの宝石箱のような言葉ばかり。
しかし、電話を切ったリュウタは、なぜか胸が高鳴っていた。
「ふふふ。なんだろう、この感じ」
タツコがキッチンから顔を出す。
「なにニヤニヤしてるの?」
「いや、みんな無理って言うんだよ」
「それでなんで笑ってるの?」
「なんかワクワクしてきて」
「あなた、ほんと変わってるわね」
タツコは呆れながらも、どこか楽しそうだった。
リュウタはソファに座り、天井を見上げた。
できない理由がこんなにあるなら、逆にやりがいがあるじゃないか
その目は、まるで少年が新しい遊びを見つけたときのように輝いていた。
タツコのヒント
会議から数日後。
リュウタは郡山の自宅リビングで、ノートを広げてうーんとうなっていた。
「3倍。3倍か」
その横で、タツコがサプリの小袋を仕分けしている。
「あなた、また難しい顔してる」
「いや、売上3倍のアイデアを考えてて」
「ふーん。で、出たの?」
「いや、まだ。でも、なんかヒントがありそうなんだよなぁ」
タツコはサプリの袋をトントンと揃えながら言った。
「ヒントなんて、日常に転がってるものよ」
「日常?」
その言葉が、リュウタの脳内でピカッと光った。
「そうだタツコのサプリだ!」
突然立ち上がったリュウタに、タツコがびくっとする。
「ちょっと、なに急に」
「いや、サプリだよ、サプリ! 食べても太らないとか、栄養がちゃんと取れるとか、そういう付加価値!」
「付加価値?」
「そう! 冷凍食品にも付ければいいんだよ!」
タツコは腕を組んで、ふむ、と頷いた。
「なるほどね。あなた、毎日サプリ飲んでるもんね」
「そう! 俺、サプリで健康維持してるじゃん?」
「うん。私が仕分けしてるからね」
「そこは強調しなくていいけど」
太らない?
リュウタはノートに勢いよく書き始めた。
「冷凍食品に食べても太らないって付加価値をつける!」
「そんな魔法みたいなことできるの?」
「できるよ。だって、食物繊維を増やせば満足感が出るし、カロリーを抑えても栄養素を補えるようにすればいい」
「へぇ、サプリみたいに?」
「そう! まさにそれ!」
タツコは満足げに微笑んだ。
「じゃあ、私のサプリ生活が会社の売上3倍に貢献するってこと?」
「まぁそういうことになるかも」
「よし、じゃあ今日からサプリの仕分け、もっと丁寧にするわ」
「いや、今のままで十分だから」
3回に分ける?
さらにリュウタは、もう一つのアイデアを思いついた。
「そうだ! 1日分のパックを3回に分けて食べられるようにするのはどうだろう」
「え、サプリみたいに?」
「そう! 冷凍食品だから、食べ残した分は袋のふたを閉めて冷凍庫に戻せばいい」
「なるほどねぇ。あなた、サプリの影響受けすぎじゃない?」
「いや、でも合理的でしょ?」
「まぁね。あなた、3回に分けて食べるの得意だし」
「それはサプリの話だよね?」
タツコはくすっと笑った。
リュウタはノートに大きく書いた。
『冷凍食品=簡便なカロリー摂取 → 健康を簡便に摂取できる食材へ』
「これだ。これがシフトチェンジの方向性だ!」
「なんか、かっこいいこと言ってるけど」
「いや、本当にこれが鍵だと思うんだよ。冷凍食品を変える。健康を手軽に摂れる食材に変えるんだ」
「あなた、ほんとワクワクしてるわね」
「うん。なんか、すごく楽しい」
タツコはサプリの袋を並べながら、ぽつりと言った。
「あなたが楽しそうだと、私も嬉しいわ」
「ありがとう。じゃあ、このアイデアまとめてみるよ」
夜遅くまでノートに向かいながら、リュウタは思った。
これはいける。絶対にいける
他の支店長たちが「無理だ」と言っていたのが、逆に背中を押してくれるようだった。
タツコのサプリ生活が、まさか会社の未来を変えるヒントになるとは――
人生、どこに宝が落ちているかわからない。
支店長会議
2月の本社。
会議室には全国の支店長たちがずらりと並び、空気は妙に重かった。
理由はひとつ――社長が前回の会議で投げつけた売上3倍の宿題である。
「では、郡山支店の根岸支店長。お願いします」
社長の声に、リュウタは立ち上がった。
緊張よりも、どこかワクワクした表情だ。
「えー、私からの提案は冷凍食品のカテゴリーを変える、というものです」
ざわっ。
支店長たちが一斉に顔を上げた。
「カテゴリー?」
「どういうこと?」
「また新商品開発の話か?」
案の定、すぐに反対意見が飛んできた。
「新商品開発なら、これまでも継続してやってきたじゃないか」
「いまさら新商品でなんとかなるなんて、今までの努力を否定することにならないか?」
「そもそも、冷凍食品の市場は飽和してるんだよ」
会議室は一気にできない理由コンテストの様相を呈した。
しかしリュウタは、落ち着いた声で言った。
「皆さん、誤解があります。これは単なる新商品開発ではありません」
支店長たちが一斉に黙る。
「商品のカテゴリーそのものを変える、という提案です」
リュウタは続けた。
「これまで冷凍食品は簡便なカロリー摂取の位置づけでした。しかし、これを健康を簡便に摂取できる食品へと変えるのです」
「健康?」
「冷凍食品で?」
「そんなことできるのか?」
ざわざわと声が広がる。
「はい。例えば、食べても太りにくい、食物繊維が豊富で満足感がある、低カロリーでも不足しがちな栄養素が取れる――そういった付加価値をつけます」
「付加価値」
「なるほど?」
少しずつ空気が変わっていく。
「さらに、1日分を3回に分けて食べられるパックにします。冷凍食品なので、残した分は袋を閉じて冷凍庫に戻せばいい」
「3回に分けて?」
「サプリみたいだな」
「いや、でも合理的かも」
会議室に、微妙な納得の空気が流れた。
ひと通り意見が出たところで、社長は腕を組み、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくり口を開いた。
「これは一つのアイデアとして面白い」
リュウタの胸が少し熱くなる。
「ただし、売上を3倍にできるという根拠が抜けている」
会議室が再び静まり返る。
「4月の全体会議で、このアイデアを正式に発表してもらう。根拠を示せるよう、完成させてくるように」
「はい!」
リュウタは背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
身が引き締まる思いだった。
その後、他の支店長たちの発表が続いた。
「加熱調理せずに食べられる冷凍食品の開発を」
「売上アップのためには、まずコスト削減が急務でして」
「定価を2割下げれば販売数量が増えるという試算が」
どれも現実的で安全で無難な案ばかり。
リュウタは心の中でつぶやいた。
(なんか、俺だけ方向性が違うな)
しかし同時に、胸の奥で小さな炎が燃えていた。
(でもだからこそ、やる価値がある)
会議が終わり、リュウタはエレベーターに乗りながら深呼吸した。
4月までに、必ず形にする
その決意は、これまでのどの仕事よりも強かった。
合同会議で
全国にちらばる管理職が集まる年に一度の大舞台。
会議室の空気は、2月のときよりもさらに重く、さらにピリピリしていた。
その中央で、リュウタは静かに立ち上がった。
「それでは、郡山支店の根岸支店長。お願いします」
社長の声が響く。
リュウタは深呼吸し、スライドをめくった。
「食事に求められている新たな機能は、ダイエット効果、マッチョ化、そしてフレイル予防、さらに満足感にあります」
ざわっ。
支店長たちが一斉に顔を上げた。
「ダイエット?」
「マッチョ化?」
「フレイル予防って冷凍食品で?」
フレイル(虚弱)予防には、栄養(特にたんぱく質)、運動(筋力・バランス)、社会参加(人との交流)の3つの柱が重要です。これらをバランス良く生活に取り入れ、食生活の改善(肉・魚・卵・大豆製品を摂る)、体を動かす習慣(ウォーキング、筋トレ)、趣味やボランティアなどの社会活動への参加を通じて、心身の衰えを防ぎ、健康寿命を延ばすことができます。Google検索より
リュウタは続けた。
「カロリーの余分な摂取は不要です。必要なのは、良質な脂質、十分なたんぱく質、ビタミン類、必要なミネラル、そして食物繊維です」
「なんか健康番組みたいだな」
「いや、でも言ってることは正しいぞ」
会議室の空気が少しずつ変わっていく。
ビタミンは貯蔵できない
「特にビタミン類は体内で貯蔵ができません。毎日必要量を摂取する必要があります」
「毎日?」
「冷凍食品で?」
「なるほど」
支店長たちがメモを取り始めた。
「そこで、冷凍食品を健康に大切な要素を簡便に摂取できる食品として再定義します」
そして、続けた。
「売上アップの根拠は、ダイエット市場の取り込みと、筋トレ市場の取り込みです。これらを単純に掛け合わせることで、3倍の市場規模が見込めます」
「掛け算?」
「いや、でも理屈はわかる」
「筋トレ市場は伸びてるしな」
会議室に、前向きな空気が流れ始めた。
社長は腕を組み、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくり口を開いた。
「これは非常に面白いアイデアだ」
リュウタの胸が熱くなる。
「ただし、売上を3倍にできるという根拠は、まだ弱い。今後、具体的な数字を詰めていく必要がある」
「はい!」
「しかし、方向性としては大いに評価できる。合同会議での採択案として扱う」
会議室がざわめいた。
「採択?」
「すごいじゃないか」
「郡山の根岸支店長、やるなぁ」
気づいた本当の理由
会議が終わり、席に戻ったリュウタは、ふと気づいた。
(俺、なんでこんなに前向きでいられるんだろう)
47歳にしては若々しいと言われる。
朗らかだと言われる。
女子社員からの受けも、なぜか悪くない。
体格はマッチョではない。
特別な運動もしていない。
なのに、なぜか明るく見えると言われる。
(笑顔だ)
そう、笑顔だった。
タツコの料理とサプリのおかげで体調が良い。
体調が良いから、気前も良くなる。
気前が良いから、自然と笑顔になる。
その笑顔が、
・支店長に抜擢された理由
・積極的なアイデアを出せた理由
・今回のアイデアが採択された理由
すべてにつながっているのではないか。
(そうか。笑顔って、すごい力なんだな)
合同会議の最後、社長がリュウタに言った。
「締めの挨拶を頼む」
「えっ、僕が?」
「採択案を出したのは君だ。がんばれ。」
リュウタは前に出て、マイクを握った。
「えー。今回、私のアイデアを採択していただき、ありがとうございます」
社員全員が静かに耳を傾ける。
「私は、特別な才能があるわけではありません。マッチョでもありませんし、頭がずば抜けているわけでもありません」
会議室に笑いが起きる。
「ただ、体調が良いと、自然と笑顔になります。笑顔でいると、前向きなアイデアが浮かびます。前向きなアイデアが浮かぶと、仕事が楽しくなります」
合同会議に参加していた全員が頷き始めた。
「だから私は、健康でいること、そして笑顔でいることが、売上3倍の第一歩だと思っています」
社長が満足げにうなずく。
「皆さん、どうか今日から、笑顔でいきましょう」
会議室に、温かい拍手が広がった。
会議が終わり、リュウタはタツコに電話した。
「タツコ、採択されたよ」
「すごいじゃない!」
「うん。でもね。気づいたんだ」
「なにを?」
「俺がここまで来れたのって、タツコのおかげだなって」
「急にどうしたのよ」
「いや、ほんとに」
「じゃあ、帰ってきたら笑顔でサプリ摂ってね」
「はい」
リュウタは笑った。
その笑顔は、これからの未来を照らすように明るかった。

