写真をキャンバスに貼りつけるだけじゃない、心を転写するデコパージュ:コンビニバイトからインスタ動画を参考に始めた趣味で依頼が殺到。教室も人気な物語
🌿写真をキャンバスに貼りつけるだけじゃない、心を転写するデコパージュ

コンビニのパートを辞めて3か月。紅茶を飲みながらスマホを眺めていたノリコは、偶然流れてきた手芸の動画に心を奪われる。高校時代の美術部の記憶がよみがえり、キャンバス作りをしたいという衝動に駆られる。


静かな午後、偶然が運んできた新しい扉

午後3時。ノリコはキッチンのテーブルに座り、湯気の立つ紅茶を前にぼんやりしていた。

「はぁ」

ため息が、カップの縁をかすめて消えていく。3か月前、コンビニのパートを辞めた。深夜シフトの話が出たとき、頭では仕方ないと思ったが、体が無理と言っていた。結局、店長にすみませんと頭を下げて、制服を返した。それからというもの、家事はこなしているものの、ぽっかり空いた時間がノリコをもてあそんでいた。テレビはどれも似たようなバラエティばかり。ケンジは夕方まで帰ってこないし、タカコもユウタも学校の部活で忙しい。

「何か、暇つぶしないかしら」

スマホを手に取り、インスタグラムを開く。最初は料理動画や猫のいたずらに笑っていたが、ふと気づくと、画面には手芸やアクセサリー作りの動画がずらりと並んでいた。

「え?なんでこんなに」

まるでスマホがノリコの心を読んだかのようだった。ビーズを並べる手、布を切る音、細かい作業に集中する顔。見ているうちに、ノリコの中に眠っていた何かが、そっと目を覚ました。高校時代、美術部で絵を描いていた記憶がよみがえる。けれど、動画で紹介されているのは絵ではなく、キャンバスの作り方だった。

「キャンバスって、自分で作れるの?」

木枠に布を張る工程、必要な道具、布の種類まで、動画は丁寧に教えてくれる。ノリコは紅茶をすすりながら、画面に見入った。

「キャンバスの布って、どこで買えるのかしら」

つぶやいた瞬間、次の動画がそれに答えるように現れた。まるで魔法のようだった。そして、ついにこれだ!と思える動画が現れた。子どもの写真をキャンバスに貼り付ける方法。画面の中では、笑顔の女の子の写真が、丁寧にキャンバスに貼られていく。ノリコの胸が、じんわりと温かくなる。

「ユウタの七五三の写真、まだアルバムに入れっぱなしだったわね…」

紅茶の湯気の向こうで、ノリコの新しい副業の芽が、静かに芽吹き始めていた。そのとき、リビングからケンジのくしゃみが聞こえた。

「へっくしょん!」

「花粉?それとも老化?」

ノリコはくすっと笑い、スマホをテーブルに置いた。

「よし、ちょっとやってみようかしら」

その声は、誰に向けたものでもなく、でも確かに未来に向かっていた。

道具をそろえて、たい焼きと一緒に夢を持ち帰る

翌朝、ノリコはいつになく早起きした。

「よし、今日は材料をそろえる日!」

紅茶を一口飲み干すと、エコバッグを肩にかけて玄関を出た。向かったのは、隣町の駅前ホームセンター。DIYコーナーの木材売り場で、ノリコは2メートルほどの角材を見上げた。

「これ、電車で持って帰れるかしら」

一瞬不安になったが、店員さんがカットもできますよと笑顔で教えてくれた。のこぎりも手に取り、ついでにタッカーというホッチキスの巨大版も購入。キャンバス布と、それを貼るためのクランプも忘れずに。

「なんか、職人みたいじゃない?」

自分の買い物かごを見て、ノリコはくすっと笑った。

いったん帰宅して荷物を置いて、休むまもなく次に向かったのはダイソー。手芸コーナーで、デコパージュ専用液(オールパーパス)と仕上げ液、絵筆を手に取る。ふと目をやると、棚の下にF4サイズのキャンバスが並んでいた。

「えっ、これ100円?!」

思わず声が出た。隣にいた作業服の若い男性がびっくりして振り返った。

「す、すみません、ちょっと感動しちゃって」

ノリコは照れ笑いしながら、キャンバスを2枚かごに入れた。これなら、次回からもっと気軽に試せそうだ。帰り道、商店街の入り口にあるたい焼き屋さんの前で足が止まった。

「今日は頑張ったし、ご褒美ね」

たい焼きを4匹注文。娘のタカコ用にあんこ、ケンジとユウタにはカスタード、自分には期間限定のさつまいも味。袋を受け取ると、店主のおばちゃんが言った。

「奥さん、今日はなんかいいことあったの?キラキラ輝いてるわよ」

「ええ、ちょっと、たい焼きが食べられる人生ってサイコーって思って」

ノリコはそう言って笑った。おばちゃんもいいねぇ!と笑い返してくれた。家に帰ると、タカコが制服姿でリビングにいた。

「ママ、たい焼き?やったー!」

「パパとユウタの分は冷蔵庫に入れておいてね。タカコのはあんこよ、しっぽの先を見るとわかると思うわ。今日はDIYで忙しいのよ、ごめんね」

ノリコはそう言って、買ってきた材料をテーブルに並べた。木材、布、道具たちが、まるで新しい物語の登場人物のように並んでいる。

「さて、キャンバス職人ノリコ、初仕事といきますか」

その声には、ちょっとした誇らしさと、未来へのわくわくが混じっていた。

ピーターラビットと秘密のキャンバス、母屋の記憶とちょっとした誇り

「デコパージュって、何?」

ノリコがそうつぶやいたのは、1週間前にキャンパスへ写真を貼り付ける動画を見たときのことだった。そのときもリビングでたい焼きを頬張っていたタカコが、口をもぐもぐさせながら答えた。

「え?ママ知らないの?高イチのとき美術でやったよ」

「そうなの?」

「うん、私の手提げバッグ、ピーターラビットの絵ついてるでしょ。あれ、テーブルナプキンの模様をデコパージュしたの」

デコパージュとは、紙や布の切り抜きを様々な素材に貼り付け、ニスなどでコーティングして装飾する工芸技法です。フランス語の「切り抜く」を意味する「decouper」が語源となっています。

ノリコは思わずバッグを見直した。確かに、うさぎが野原を駆ける絵が、布に溶け込むように貼られている。

「へぇ、あれ手作りだったのね」

ちょっと感動した。もし写真をうまく貼れなかったら、タカコに助けてもらえばいい。そう思うと、心強かった。けれど、実際には初回からうまくいってしまった。初めてのキャンバスは、ユウタの七五三の写真。コピー用紙に印刷して、慎重に液を塗り、乾かし、コピー用紙をほどいて、仕上げ液を重ねる。思った以上に綺麗にできた。

「見て、こんなの作ったのよ」

数日後、ノリコはタカコに自慢した。タカコはすごいじゃん!と笑ってくれた。ケンジには、何も言っていなかった。趣味の一環だし、報告するほどのことでもない。

「どうせ、たい焼きの話のほうが食いつくんだから」

ノリコはそう思っていた。それから3か月。キャンバスは20枚以上になっていた。家族写真、風景、昔の旅行の写真。思い出の一枚一枚がどんどん積み重なっていった結果だ。額縁に入れて、廊下やリビング、寝室や洗面所にそっと飾っておいた。もう飾る壁がないと思ったある晩、夕食後のリビングでケンジがぽつりと言った。

「廊下の写真、どこかで印刷してもらったの?」

ノリコは一瞬固まった。答えはノー。でも、どう説明すればいいか迷っていると、ケンジが続けた。

「キャンバスに写真を印刷できるなんて知らなかったよ。秋田の実家の母屋、取り壊すって言ってたろ?あの写真、その印刷屋さんでキャンバスにしてもらえないかな、2枚。母と兄貴に残してやりたいんだ」

ノリコは、ケンジの目が少し潤んでいるのに気づいた。酔っぱらっているのかな。ケンジはさらに独り言のように話しかけてきた。

「いくらくらいするだろう?」

その問いに、ノリコはとっさに答えた。

「2枚で1万円もしないわ」

それは、事実でもあり、ちょっとした誇りでもあった。ケンジはそうか、とつぶやきテレビのリモコンを手に取った。ノリコは、押し入れの中のキャンバスたちを思い浮かべながら、静かに紅茶をすすった。

秋田のキャンバスと、ノリコの新しい扉-家族の記憶をインスタへ

「母屋の写真、なかなかいいなと思うのが3枚あるんだけど」

ケンジがスマホを差し出したのは、梅雨が明けたばかりのある夜だった。ノリコは受け取った画面を見つめた。懐かしさと、少しの寂しさがにじむ風景。雪の積もった屋根、夏の庭、そして玄関先に並ぶ家族の姿。

「これを1枚のキャンバスにできる?」

「うん、できると思う」

ノリコはパソコンを立ち上げ画像編集ソフトを開いた。3枚の写真を並べて、色味を調整し、余白にやさしいグラデーションを加える。まるで、季節がひとつの物語になっていくようだった。

翌日、コンビニでカラー印刷を済ませ、ダイソーで買っておいたデコパージュを塗り付ける。手順はもう慣れたものだった。液を塗り、乾かし、再びデコパージュを重ねる。これを4回繰り返して、仕上がったらキャンバスに張り付ける。コピー用紙を削り取れば出来上がりだ。あとは、デコパージュ仕上げ液の出番。仕上がりを見てノリコはそっと息を吐いた。

「これなら、渡せるわね」

ケンジの夏休み。ノリコは一緒に秋田の実家へ向かった。久しぶりの帰省。写真の母屋はすでに跡形もない。夕食後、3家族が集まった新築の居間で、ケンジがキャンバスを取り出した。

「これ、ノリコが作ってくれたんだ」

母と兄が目を見開いた。キャンバスには、懐かしい風景が並んでいた。母はまあ!と声を震わせ、兄はこれ、どこで作ったの?と聞いた。ノリコは少し照れながら、家で、趣味で、と答えた。その夜、ノリコはその様子をインスタグラムに投稿した。

「家族の記憶をキャンバスに。母屋の写真をデコパージュしてみました」

すると、コメントが次々と届いた。

「素敵ですね」「どこで作ってもらえるんですか?」「うちも祖父母の家の写真だけがあります」

ノリコは驚きながらも、嬉しかった。数日後、キャンバス写真をおつくりいたします、という動画をインスタにアップした。作業風景、材料の紹介、完成品の例。すると、DMで注文が届くようになった。

「祖父の古い写真をキャンバスにしてほしい」「ペットの思い出を残したい」「結婚式の写真を飾りたい」

ノリコは、1枚1万円で受けることにした。材料費や発送の手間を考えれば、ちょうどいい。何より、誰かの記憶を形にすることが、彼女にとっては喜びだった。キッチンのテーブルには、今日も紅茶が湯気を立てている。スマホには、新しいDMが届いていた。

「キャンバス、お願いできますか?」

ノリコは微笑んだ。

「はい、よろこんで」

キャンバス屋ノリP、町に咲く―たい焼き屋から町内会へ―

ノリコのスマホには、毎週のようにDMが届くようになった。

「祖母の若い頃の写真をキャンバスにしてほしい」「うちの猫の寝顔、ぜひ残したいです」「お店の開店記念に、初日の写真を飾りたい」

1枚1万円。高すぎるかと思ったが、みんな、思い出に値段はつけられないと言ってくれた。ノリコは、紅茶をすすりながら、ひとつひとつ丁寧に作業を続けた。ある日、商店街のたい焼き屋のおばちゃんが言った。

「奥さん、インスタ見たよ。あんた、キャンバス屋さんなんだね」

もう、ずいぶん近所で話題になってしまっている。

「ええ、まあ、趣味がちょっと広がっただけです」

「うちの店の昔の写真、つくってもらえない?開店当初のやつ」

「もちろんです。たい焼き3匹でいかがでしょう」

「それじゃ、うちが赤字だよ!」

ふたりは笑い合った。そのうち、町内会の掲示板にキャンバス作品展のチラシが貼られた。ノリコの作品を見たたい焼き屋さんの常連客が、町内会の文化祭で展示しようと言い出してくれたのだ。公民館の一角に家族写真や風景・ペットのキャンバスが並んだ。展示の日、ケンジは照れくさそうに言った。

「なんか、すごいことになってるな」

「たい焼き屋さんのせいよ」

「いや、ノリコの腕だろ」

その言葉に、ノリコはちょっとだけ胸を張った。展示のあと地元の雑貨店から、うちでも販売してみない?と声がかかった。ノリコは受注生産なら、と答えた。その雑貨店の一角にキャンバス屋ノリP(※雑貨屋さんがノリPと名付けてくれた)の小さなコーナーができていた。注文用紙とサンプル作品が並ぶ。それから何週間か経って、タカコが学校から帰ってきて報告した。

「ママ、うちのキャンバス、先生が見て感動してたよ。卒業記念にやりたいって」

「それは、ちょっとこまったわね、大仕事になるわ、タカコも手伝ってくれるんでしょう?」

「でも、ママならできると思う」

ノリコは、紅茶を一口飲んでから言った。

「じゃあ、たい焼き10匹で、タカコも、どう?」

キャンバス屋ノリPは、今日もキッチンのテーブルで、紅茶とともに静かに作品を仕上げている。そのキャンバスには、誰かの大切な記憶が、そっと息づいている。

続編:思い出を貼る教室―人生で残しておきたい写真から広がる輪

「土日は、やっぱり難しいわよね」

ノリコはカレンダーを見つめながら、ため息をついた。家族の予定、買い出し、掃除、洗濯。主婦の週末は、意外と忙しい。それでも、やってみたかった。

「人生で残しておきたい思い出の写真」そんなテーマのワークショップを、公民館で開くことにした。半年で3回のコース。平日の午後、2か月に一度、2時間の開催。

🖼️キャンバス屋ノリP ワークショップ開催!

人生で残しておきたい思い出の写真をキャンバスに

紅茶とたい焼きから始まった、ちいさな手しごと屋「キャンバス屋ノリP」。
家族の記憶、旅の風景、ペットの寝顔——あなたの大切な一枚を、キャンバスにしてみませんか?

デコパージュという技法を使って、写真をキャンバスに貼り付けるワークショップです。初心者の方も大歓迎!道具はすべてこちらでご用意します。

🗓️開催概要

講座名:人生で残しておきたい思い出の写真
日程:全3回(半年間)
時間:平日午後(詳細はお問い合わせください)
場所:〇〇市公民館 第2集会室
定員:各回10名(先着順)
参加費:1回 1,500円(材料費込み)
持ち物:キャンバスにしたい写真(L判〜A4サイズまで)

🌟こんな方におすすめ

✔ 家族の写真を飾りたい方
✔ 思い出を形に残したい方
✔ 手作りが好きな方
✔ ちょっと気分転換したい方

🧵講師紹介

キャンバス屋ノリP(ノリコ)
元コンビニ勤務の主婦。趣味で始めたキャンバス作りが地域に広がり、今では「記憶を貼る人」として活動中。たい焼きと紅茶をこよなく愛する、町の手しごと屋さんです。

📞お申込み・お問い合わせ

インスタグラム:@canvasya_noriP
メール:canvasya.norip@example.com
電話:080-xxxx-xxxx(平日10:00〜16:00)
※11月の公民館まつりでも体験コーナーを出展予定です。ぜひ遊びに来てください!

「土日じゃないの?」「子ども預けてでも行きたいのに!」そんな声もあったけれど、逆に次が待ち遠しいと言ってくれる人もいた。

「ノリPさんの講座、癒やしなんです」「この時間があるから、また頑張れる気がするんです」そんな言葉に、ノリコは胸がじんわりと温かくなった。参加者は、子育てを終えた主婦や、介護の合間を縫って来る人、写真好きの若いママたち。

「この写真、父が若い頃のなんです」「うちの犬、もういないんですけど…」「娘の成人式の写真、ずっと飾りたくて」それぞれの思い出が、キャンバスの上にそっと貼られていく。

11月の公民館まつりにも出展した。

「デコパージュ体験コーナー、ありますよ〜!」

ノリコの声に、ふらりと立ち寄った人が5人、実際に体験してくれた。
「楽しい!」「これ、家でもできるんですね」「でも、やっぱりノリPさんの仕上げは違うわ〜」

そのたびに、名刺代わりにしているインスタグラムのQRコードを渡した。イベントでは苦労も多かったけれど、キャンバス屋ノリPに写真印刷を頼む人も徐々に増えた。

「おばあちゃんの誕生日に」「保育園の卒園記念に」「お店の周年祝いに」

ノリコは忙しくなったけれど、心はどこか穏やかだった。キッチンのテーブルには、今日も紅茶とたい焼きと、乾きかけのキャンバスが並んでいる。ノリコは絵筆を置き、スマホを手に取った。

「次のワークショップ、春もやろうかしら」その投稿に、すぐに「いいね」がついた。

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