プリン🍮③

プリン③
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悲しみは確かにある。でも、暗く沈むのではなく、人は愛した人と共に生き続けられるという優しい物語を語ります。アイコの強さ・周囲の支え・亡き、ヒサシの存在感を温かく描いた物語です。

あまりにも突然だった

ヒサシが倒れたのは、ブティックに転職して3年目の夏。朝、いつも通り「プリン買って帰るからな」と笑って出ていった。その日の夕方、アイコのスマホが鳴った。警察からの電話。

そして、あまりにも早い別れ。アイコは涙も出なかった。ただ、現実が理解できなかった。その夜、家に戻ったアイコは冷蔵庫を開けてしまった。

そこには非常用プリンが2つ。(なんで、こんな時にプリンなの)でも、アイコは気づいた。(ヒサシって、最後の最後まで私のためにプリン買ってたんだ)涙がぽろぽろ落ちた。悲しみと、ヒサシらしさへのツッコミが同時に来る。

「非常用って、何の非常よ」泣きながら笑うという、人生で初めての感情だった。

葬儀

葬儀には、会社の人、ブティックの常連客、アイコの実家、ヒサシの実家、とにかく大勢が来た。

そして全員が言う。「ヒサシくん、ほんとにドジだったよね」「でも憎めないんだよなぁ」

「うちの店でも棚を倒してねぇ」
「うちの会社でもコピー機壊してねぇ」

アイコは思った。(なんでみんな、ヒサシの失敗談ばっかり話すの?)でも、気づいた。

(あぁ。みんな、笑わせようとしてくれてるんだ)

アイコの実家の母・ミドリが葬儀場に持ってきたのは「ヒサシくんが最後に飲んだ、庭のスーパーフードよ」

「お母さん、それ雑草だからね!」周囲がクスッと笑った。悲しみの中に、小さな笑いが灯った瞬間だった。

ヒサシの実家で、静かすぎる優しさに泣く

葬儀後、アイコはヒサシの実家へ。義父タケオは、いつものように無言でお茶を出した。しかし、帰り際にぽつり。

「アイコさん。ヒサシはあなたと結婚して、よかった」

アイコは泣き崩れた。タケオがこんなに言葉を紡ぐのは初めてだった。ヨシコは静かに言った。

「食べて。あなた、細くなった」気づけばアイコの皿は山盛り。(この家の優しさ、静かすぎて逆に泣ける)

一人暮らしのスタートと、ヒサシの残したメモ

  • 洗濯物の干し忘れ
  • プリンの空き容器
  • 中途半端に直された家電
  • 「明日やる!」と書かれたメモ

アイコはそれを見て笑った。(ほんとに、5歳児みたいな夫だったな)でも、同時に胸が痛む。(もう、このポンコツにツッコめないんだ)ヒサシのスーツのポケットから小さなメモが出てきた。

「アイコの誕生日、今年はケーキ2個にする」

「なんで2個なのよ」泣きながら笑うアイコ。ヒサシは最後まで、アイコを笑わせる準備をしていた。

ある日、アイコはスーパーでプリン売り場の前に立った。(買ってみようかな)プリンを手に取ると、胸がぎゅっとした。でも、買った。家に帰って食べながら言った。「ヒサシ、非常用プリン、今日から私が担当するからね」

専業主婦だったアイコは、少しずつ外に出る決意をした。「ヒサシがいたら、絶対こう言うよね。 アイコならどこでもやれるって」その言葉を胸に、履歴書を書き始めた。

ヒサシのいない世界

季節が巡り、アイコは新しい仕事を始めた。失敗すると、なぜかヒサシの声が聞こえる気がする。

『あっ、やっちゃったな』『まぁ、なんとかなるって』

「なんで天国からまであなた、ポンコツなのよ」そう言いながら、アイコは笑っていた。

夜、アイコは冷蔵庫を開ける。そこにはプリンが2つ。「非常用はまだ必要だね」アイコは空を見上げて言った。

「ヒサシ、私ね。あなたがいなくても、ちゃんと笑えてるよ。でも、あなたがいたから笑えるんだよ」

ヒサシのいない世界でも、アイコは今日も笑う。それは、ヒサシが残した愛の形だった。

ヒサシがいなくなって数ヶ月。アイコの朝は、驚くほど静かだった。

  • ヒサシの「あっ」が聞こえない
  • プリンの在庫確認をする人もいない
  • 洗濯物を干し忘れる人もいない

静かすぎて、逆に落ち着かない。

「ヒサシ、あなたがいないと、家ってこんなに整うのね」そう言いながら、アイコはひとりで苦笑した。

面接の日。緊張しながら自己紹介をした。

「前職は衣料品メーカーで、結婚を機に退職しまして」

面接官が優しく聞いた。「ご主人は、今は?」

アイコは一瞬、言葉に詰まった。「天国で、プリンを食べてると思います」

面接官が固まった。しかし、面接官は笑った。「いいですね。 そういうユーモア、大事ですよ」

結果、採用された。(ヒサシ、あなたのポンコツ遺伝子が、私を救ったよ)

新しい職場は、小さな雑貨店だった。初日、緊張しながら棚を整理していると

ガタンッ!棚の上の箱が落ちてきた。

「わっ!」アイコは反射的に言った。「ヒサシ、やめてよ!」

周りのスタッフが驚いた。「えっ、誰?」アイコは赤面した。

「いえ、その。夫がよく棚を倒してたので」

スタッフは笑った。「じゃあ、ここでも倒してくれるかもしれないね」

(いや、来ないで。でも、来てほしいような)アイコは胸が少しだけ温かくなった。

仕事帰り、アイコはスーパーに寄った。プリン売り場の前で立ち止まる。

(今日、買って帰ろう)プリンを2つ手に取った。

「1つは私の。もう1つは非常用」ヒサシがいた頃と同じ習慣。でも、意味は少し違う。

(非常用って、私が泣きそうになった時用ってことね)家に帰って、プリンを冷蔵庫にそっと入れた。夜、アイコはベランダに出た。風が気持ちよくて、ふと空を見上げた。その瞬間、ヒサシの声が聞こえた気がした。

『アイコ、よく頑張ってるじゃん』『プリン、ちゃんと冷やした?』

「うるさいよ、ヒサシ」でも、涙は出なかった。代わりに、小さな笑いがこぼれた。

翌朝、アイコは鏡の前で言った。「よし。今日も働いて、笑って、プリン買って帰ろう」ヒサシがいなくても、アイコは歩ける。でも、ヒサシがいたから歩ける。その違いを胸に抱きながら、アイコは新しい日へ踏み出した。

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