おなかがつっかえて前屈できない僕が家族の愛と謎の女性の一言で変わり始めた話:ラジオ体操・減塩弁当・干しブドウ
おなかがつっかえて前屈できない僕が家族の愛と謎の女性の一言で変わり始めた話

徳島市のマンション3階。朝の光がカーテンの隙間から差し込み、寺田義男(38)はベッドの上で深いため息をついた。「肥満気味、かぁ」昨日の健康診断の結果票が、枕元で妙に存在感を放っている。まるで「ほら、見てみぃ」と言わんばかりに。


寺田、健康診断からの反省

そこへ、キッチンから妻の由美子が声をかけた。

「あなたー、朝ごはんできてるよー。今日はパンとサラダと、あとウインナー」

「ウインナー」

その単語に、義男の心が揺れた。健康診断の結果票が、さらに存在感を増す。

リビングに行くと、娘のゆき(小6)がタブレットを見ながら言った。

「パパ、また太ったん?」

「または余計や」

「だって去年も肥満気味やったやん」

横でさおり(小3)も無邪気に続ける。

「パパ、おなかポヨポヨやもん」

「お前ら、朝から容赦ないな」

このふたりは、合わせると由紀さおりになる。8時だよ全員集合でドリフと共演していたので名付けたのだった。

由美子が笑いながらコーヒーを置いた。

「でも、そろそろ本気で気をつけたほうがいいかもね。あなた、夜9時過ぎてからラーメン食べる癖あるでしょ」

「いや、あれは仕事終わりで腹が減って」

「言い訳は聞きません」

由美子は同じ名前の有名人、釈由美子みたいな体型で164cmの長身から睨みつける。

家族全員の視線が一斉に義男へ向く。映画館のホールマネジャーとして、スタッフの視線には慣れているはずなのに、家族の視線は妙に刺さる。

義男は咳払いをして、胸を張った。

「よし、パパは決めた。今日から生活習慣を改善する。まずは1日15分の有酸素運動を2回。それから夜9時以降は食べない」

ゆきが目を丸くした。

「ほんまにできるん?」

「できるとも。パパを誰やと思ってるんや」

「ポヨポヨの人」

「・・・」

さおりが手を挙げた。

「パパ、運動って何するん?」

有酸素運動とは、ウォーキング・ジョギング・水泳・サイクリングのように、酸素を取り込みながら体内の糖質や脂質をエネルギー源として使い、比較的長い時間(20分以上が目安)継続して行う運動のことで、体脂肪の減少、心肺機能の向上、生活習慣病予防、ストレス解消などに効果的です。無理のない範囲で、会話ができる程度の軽い負荷で、週3回以上、1回20~30分程度を目安に継続することが大切です。Google検索より

「そ、それはウォーキングとか、階段上り下りとか」

すると由美子が、にっこりと悪魔のように優しい笑顔を浮かべた。

「じゃあ今日から、マンション3階から1階までの階段、毎日10往復ね」

「じゅ、10往復?」

「できるんでしょ? パパを誰やと思ってるんやって言ってたし」

義男は天井を見上げた。
健康診断の結果票が、頭の中でひらひらと舞う。

こうして寺田義男の地道な努力の日々が幕を開けた。

寺田、早朝に目覚める

翌朝。
寺田義男(38)は、目覚ましが鳴る前にぱちりと目を開けた。

「おお、起きれた」

30分早起きに成功しただけで、なぜか人生がひとつ前進したような気分になる。
マンションのベランダから差し込む朝の空気は、いつもより少しだけ澄んでいるように感じた。

6時30分。
ラジオから流れる軽快なピアノの音に合わせて、義男はラジオ体操を始めた。

第一が終わり、第二に入る前の日替わり首回しタイム。
ぐるり、ぐるり。

「これだけで気持ちええな」

首の付け根がほぐれていく感覚に、思わず声が漏れる。
続く腰ひねりでは、おなか周りの脂肪がむにゅっとよじれる。

「おおこれはこれで気持ちええ」

まさか自分の脂肪に癒やされる日が来るとは思わなかった。

ラジオ体操を終えた義男は、意気揚々とマンションの階段へ向かった。

「よし、10往復や」

1往復目。
軽い。まだ余裕。

2往復目。
ちょっと息が上がる。

3往復目。
上から住人のおばあさんが降りてきた。

「あら寺田さん、朝から元気やねぇ」

「は、はぁちょっと運動を」

4往復目に入ろうとしたところで、今度は犬の散歩中の住人と遭遇。

「おはようございます、寺田さん。今日も早いですね」

「は、はぁちょっと」

義男は階段の踊り場で立ち止まった。

(これ、あと何人と会うんや)

マンションの住人と次々にあいさつする未来が見えた瞬間、義男の心は折れた。

「3往復でええか」

誰に言うでもなくつぶやき、そっと自宅へ戻った。

リビングでは、由美子が朝食を並べていた。
ゆきとさおりは、すでにパンをかじっている。

「パパ、早起きしてたなぁ」
ゆきが言う。

「うん、ラジオ体操してきた。あと階段も3往復」

「10じゃなかったん?」
さおりが純粋な目で聞く。

「住人とのあいさつが多すぎてな」

由美子が吹き出した。

「運動よりコミュニケーションのほうが負担ってどういうことよ」

「いや、朝からあんなに人と会うとは思わんかったんや」

義男はコーヒーをすすりながら、気を取り直した。

「でもな、運動だけじゃ足りんと思って、食生活も見直すことにしたんや」

「ほう」
由美子が興味深そうに眉を上げる。

「食べたあと眠くなるのは血糖値が急に上がるからやろ? だからタンパク質と野菜を先に食べて、炭水化物は後にする。それから便秘気味やから、白米を玄米に替えてほしい」

「おお、なんか急に健康番組みたいになってきたな」
ゆきが笑う。

「それと、夜寝る前にストレッチもすることにした。可動範囲が広がったら、同じ運動でも効果が上がるらしい」

「へぇ、パパすごいやん」
さおりが目を輝かせる。

義男は照れくさそうに頭をかいた。

「まぁ、できる範囲でな。無理したら続かんし」

「でも、昨日より顔がすっきりしてる気がするよ」
由美子がふっと微笑む。

その言葉に、義男の胸がじんわりと温かくなった。

(よし、今日もがんばろ)

夜のストレッチのおかげか、最近は眠りも深い。
小さな変化が積み重なって、義男の毎日は少しずつ軽くなっていく。

寺田義男の地道な有酸素運動は、まだ始まったばかりである。

寺田の愛情弁当

映画館のバックヤード。
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、寺田義男(38)はロッカーを開けた。

そこには、妻・由美子が作った550kcal弁当が鎮座している。

「550kcalって、多いんか少ないんか、いまだにわからん」

ダイエット中の昼食カロリーは1日の総摂取カロリーの3〜4割(女性なら約400~600kcal、男性なら500~800kcal目安)で、タンパク質・野菜・海藻類を増やし、揚げ物や糖質の多い主食(白米・パン)は量を調整するのが成功の鍵です。鶏むね肉サラダ、魚定食、そば、おにぎり(具材はヘルシーに)などがおすすめです。Google検索より

とりあえずフタを開ける。
色とりどりの野菜炒め、玄米、ゆで卵半分、そしてミニトマトが3つ。

見た目は華やかだ。
しかし、義男は気づいていた。

(肉、また減ってるな)

初日は豚肉がちゃんと存在していた。
2日目は探せばある。
3日目は気持ちだけ入ってる。
4日目には肉の気配だけ。
5日目には野菜の中に肉の魂が宿っている気がする。

そして1週間目。
義男は悟った。

(これはもう野菜炒めやなくて、野菜そのものや)

減塩の世界へ

由美子は血圧を気にして、減塩にも本気を出していた。

義男の健康診断結果には腎臓が傷んでいるという指標も出ていたからだ。

腎臓の数値で最も重要なのは「eGFR(推算糸球体ろ過量)」で、「クレアチニン」値から計算され、腎臓が血液をろ過する能力を示します。正常は90以上、60未満で慢性腎臓病(CKD)の可能性があり、数値が低いほど腎機能低下を示し、食生活や病気(糖尿病・高血圧など)との関連が深いため、定期的なチェックと生活習慣の見直しが大切です。Google検索より

その結果、義男の昼食はこうなった。

義男の愛妻弁当

・味がしない
・でも量は多い
・なぜか満腹にはなる
・しかし満足感はどこかへ旅立っている

義男は弁当をつつきながら、同僚に言われた。

「寺田さん、最近ヘルシーな顔してますね」

「ヘルシーな顔ってなんやねん。貧相な顔ゆわれてるみたいやん」

義男の悟り

そんな食生活が続いたある蒸し暑い日。
帰宅した義男は、冷蔵庫を開けて冷ややっこを取り出した。

キンキンに冷えている。
何もつけずに、ひと口。

「うまっ」

思わず声が漏れた。

(え、豆腐ってこんなに味あったんか?)

舌が素材の味に敏感になっていることに気づき、義男は少し誇らしくなった。

義男にはもうひとつの課題があった。
夕方のつい買い食い。

映画館の売店には誘惑が多い。
ポップコーン、ホットドッグ、チュロス、チョコ。

しかし義男は決めた。

「干しブドウを非常食にする」

ポケットに小袋を忍ばせておけば、無駄な買い物をしなくて済む。
小腹がすいたら、干しブドウを2〜3粒。

「うん、悪くない」

ビタミンも取れるし、甘みで満足感もある。
義男は自分の工夫にちょっと感動していた。

夜、キッチンで弁当箱を洗っていると、由美子が声をかけた。

弁当箱洗い方のポイント①素材に注意: 木製のお弁当箱などは、洗剤を使わずお湯とスポンジで洗い、しっかり乾かすなど、素材に合った洗い方をします ②すぐに洗う: 食べ終わったらできるだけ早く洗い、汚れが固着するのを防ぎます。 ③パッキンは外す: パッキンは汚れが溜まりやすいので、毎回外して洗いましょう。 ④しっかり乾燥: 水分が残ると雑菌の温床になるため、風通しの良い場所で完全に自然乾燥させるか、布巾で拭いてから保管します。Google検索より

「どう? お弁当、続けられそう?」

「うんまぁ野菜が日に日に増えてる気はするけどな」

「健康のためよ。あなた、すぐ調味料ドバドバかけるし」

「最近はな、豆腐に何もかけんでもうまいと思えるようになったんや」

「えっ、それはすごいじゃない」

由美子が嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、義男は思った。

(まぁ、味が薄いのも悪くないか)

家族の愛情と、自分の小さな努力。
その積み重ねが、義男の体と心を少しずつ変えていく。

寺田義男の減塩生活は、まだまだ続く。

寺田家、空前の健康ブーム

休日の午後。
徳島市のスーパーの一角で、寺田家4人はショッピングカートを押しながら歩いていた。

「ママ、知ってる? 砂糖ってエンプティカロリーなんだって」
ゆきが胸を張って言う。

「えんぷてぃ何それ」
義男が首をかしげる。

「家庭科で習ったんよ。栄養がないのにカロリーだけあるってこと。だから、できるなら黒砂糖とか、白くないやつがいいんだって」

エンプティカロリーとは、カロリーは高いのにビタミン・ミネラル・タンパク質などの必須栄養素がほとんど含まれていない食品や飲料のことです。「空っぽのカロリー」という意味で、お菓子、清涼飲料水、アルコール飲料などが代表例で、摂りすぎると肥満や生活習慣病の原因になりますが、アルコールは体内で優先的に使われ脂肪になりにくいという別の側面もあります。Google検索より

「へぇ〜、ゆき、賢いなぁ」
義男が感心していると、ゆきは得意げにメイプルシロップをカートに入れた。

「これなら体にいいでしょ」

しかし、由美子がすかさずツッコミを入れる。

「ちょっと待って。メイプルシロップは確かに体にいいかもしれんけど私たち庶民が毎日ホットケーキ食べていいわけないでしょ」

「え〜、でもおいしいのに」
ゆきが頬をふくらませる。

義男は心の中で(ホットケーキ毎日は確かにキツいな)とつぶやいた。

すると、さおりも負けじと手を挙げた。

「家庭科で習ったんだけどね、ショウガを食べるとホカホカするでしょ。あれ、代謝が上がるからなんだって」

生姜ダイエットは、生姜の温め効果による基礎代謝アップと、脂肪燃焼・吸収抑制効果で痩せやすい体質を目指すもので、生姜茶や「酢生姜」などを活用し、食事や運動と組み合わせると効果的です。生の生姜に含まれる「ジンゲロール」は血行促進、加熱した生姜に含まれる「ショウガオール」は脂肪分解や体を芯から温める効果があり、無理なく健康的なダイエットをサポートします。Google検索より

「おお、さおりも詳しいなぁ」
義男が感心すると、由美子がうんうんとうなずいた。

「ショウガはいいよ。ガリみたいなお漬物、ひょっとしたら作れるかもしれん。一緒に作ってみる?」

「つくるー!」
さおりが満面の笑みを浮かべる。

義男は(ガリを手作り? そんな家庭、聞いたことないぞ)と思いつつも、なんだか楽しそうな雰囲気にほっこりした。

家族の健康ブームに刺激されたのか、由美子も負けていなかった。

「そういえばね、ビタミンをとるには果物がいいらしいよ。今ならイチゴが旬やし、どう?」

「イチゴいいなぁ」
義男の目が輝く。

しかし、値札を見ると。1パック800円。

「高っ」
義男が思わず声を漏らす。

「でも、たまにはいいでしょ。家族で分けたらちょうどいいし」
由美子がそう言って、カートにそっと入れた。

ダイエットには、低カロリーで食物繊維豊富ないちご、グレープフルーツ、キウイ、ブルーベリーなどが特におすすめです。これらは満腹感を得やすく、ビタミンやミネラルも豊富で代謝を助けますが、果糖による糖質過多には注意し、1日200g程度を目安に、食べるタイミング(朝食や運動前)や食べ方(皮ごと・よく噛む)も工夫するとより効果的です。Google検索より

その夜。
食卓の真ん中に、赤く輝くイチゴが置かれた。

「じゃあ、みんなで分けよ」
由美子が言うと、ゆきもさおりも目を輝かせた。

「甘っ」
「おいしい〜」
「800円の味やな」
義男はしみじみとつぶやいた。

家族4人でイチゴをつまみながら、健康の話題で盛り上がる。

「パパ、明日はショウガのガリ作るんよ」
さおりが嬉しそうに言う。

「おお楽しみやな」
義男は笑った。

(なんか健康って、家族でやると楽しいな)

そんな気持ちが、じんわり胸に広がった。

寺田家の健康ブームは、ますます加速していく。

寺田、秘密の動機

義男には、誰にも言っていない真の理由があった。
おなか周りの脂肪を落としたい。その裏には、月に一度だけ現れる謎の女性の存在があったのだ。

映画館のレディース・ディ、夕方7時。
必ずやってくるその女性は、ロングヘアに秋色のワンピース。
年齢も名前もわからない。宇宙戦艦ヤマトのスターシャのように、ただ、落ち着いた雰囲気と、どこか凛とした佇まいが印象的だった。

「宇宙戦艦ヤマト」シリーズにおけるスターシャは、イスカンダル星の女王であり、地球を救うためにコスモクリーナーDの設計図と波動エンジンを提供した重要人物です。 Google検索より

ある日、彼女がチケットを取り落とした。
義男は反射的に拾おうとしたが、その前に。

彼女は、膝を曲げずに、足をスッと伸ばしたまま、ハイヒールのまま、ひょいっとチケットを拾い上げた。

「え、そんなことできるん」

義男は心の中で叫んだ。

義男心の叫び

・体が柔らかい。
・女子力が高い。
・そして何より、かっこいい。

(俺も、もうちょい引き締めなあかん)

その瞬間、義男の中で健康改革の火がついたのだった。

それからしばらくたったある晩。
夕食後のリビングで、義男はコーヒーを飲みながら、ふと口を滑らせた。

「そういえばな俺、最近おなか引っ込めようと思った理由があって」

由美子がテレビのリモコンを置いた。

「へぇ、どんな理由?」

義男は、なぜかそのとき、脳のブレーキが完全に壊れていた。

「映画館に来るお客さんでな、月に1回、ロングヘアで秋色のワンピースの女性がおるんよ。なんかこう体柔らかくて、かっこええ感じの人でな」

由美子の手が止まった。

「ふーん?」

義男は気づかない。

「この前なんか、チケット落としたのに、膝曲げずに拾っててな。あれ見て俺ももっと体柔らかくならなって思って」

「へぇぇぇぇ?」

由美子の声が、1オクターブ低くなった。

義男はようやく異変に気づいた。

「え、あの、そのいや、別に変な意味やなくてその」

「義男さん」

由美子がにっこり笑った。
しかし、その笑顔は本当に怒っているときのやつだった。

「あなた、健康の理由に謎の女性を使うのは、やめといたほうがいいと思うよ」

「す、すみません」

義男は背筋を伸ばした。
ストレッチで柔らかくなった体が、このときばかりは役に立たなかった。

その夜、布団に入る前。
由美子がぽつりと言った。

「でもまぁ、誰かに刺激されて健康になるなら、それはそれでいいけどね」

「え、ほんまに?」

「ただし。次にその人が来たら、私にも教えてね」

「はい」

義男は天井を見つめながら思った。

(なんで俺、あんな話したんや)

しかし、どこかで少しだけ、胸が軽くなっていた。

寺田義男の健康改革の裏事情は、家族にバレてもなお続くのであった。

寺田、ついにその瞬間

映画館の夕方、一瞬静かになる瞬間がある。
開店前のチケット売り場に、義男(38)はひとり立っていた。

(よし今日こそ、つま先立ちで膝を伸ばしたまま、地面に手をつける!)

あの謎の女性が軽々とやってのけた動作。
義男はあれ以来、裏方事務所でも、誰もいないトイレ掃除の時間でも、こっそり練習を続けていた。

つま先立ち。
膝は伸ばす。
ゆっくり前へ。
「ぐ、ぐぬぬ」

おなかがつっかえて、どうしても前傾姿勢が深まらない。
今日もまた、地面は遠い。

(あかんまだ無理や)

顔を上げた、その瞬間だった。

目の前に。
あの女性が立っていた。

ロングヘアに秋色のワンピース。今日ははたしてコスモス柄だ。
まさに、月に一度のレディース・ディの夕方に現れるあの人。今日はレディース・ディではないが。

義男は固まった。
(なんで、この時間に??)

女性は、義男のおなかがつっかえている姿を見て、ふっと笑った。

「それね、とても難しいのよ」

「えっ」

「私もね、やっとできるようになったの。だから、どこかで披露したくなってこのあたりで一度やってのけたけど、膝の後ろがつるかと思ったわ」

意外にも気さくで、柔らかい声だった。

義男は、みっともない姿を見られた恥ずかしさで、顔が真っ赤になった。

「そ、そうなんですか」

「でも、がんばってるの、すごくいいと思うわよ。
今日はね、今週のチケット2枚、予約の受け取りで来たの」

その言葉に、義男の胸がじんわり熱くなった。

女性は軽く会釈して、映画館のロビーへ歩いていった。
残された義男は、しばらくその場で固まっていた。

(見られた。よりによって今日。)

その夜。
義男は夕食後、由美子に自虐的な笑い話として今日の出来事を話した。

「でな、俺、つま先立ちで前に倒れようとしてたら、あの女性が目の前におってもう、恥ずかしすぎて死ぬかと思ったわ」

由美子は、最初こそぽかんとしていたが、やがて吹き出した。

「なにそれ、あはははは! あなた、そんなところで練習してたの?」

「いや、まぁその」

「でもね」

由美子は笑いながらも、ふっと優しい表情になった。

「あなた、がんばってるんやね。ええやん。続けなよ」

「えっ怒らんの?」

「怒る理由ないでしょ。だって、あなたが健康になってくれたら、それが一番やもん」

義男は胸が熱くなった。

(なんや、俺、ええ家族に恵まれてるな)

その夜、寝る前のストレッチをしながら、義男は思った。

(いつか俺も、あの女性みたいに、膝伸ばしたまま拾えるようになったる)

でも、次に彼女が来たときは。
その話を、真っ先に由美子に伝えよう。

そう決めた。

寺田義男の地道な努力は、これからも静かに続いていく。

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