砂糖断ちで人生軽くなった私が焼き芋壺と一緒にオーストラリアへ行くまでの話
砂糖断ちで人生軽くなった私が焼き芋壺と一緒にオーストラリアへ行くまでの話

夏休みまで、まだ3か月もある5月の連休明け。27歳のエミコは、ふと鏡の前で立ち止まった。(あれ?なんか、冬より丸くなってない?)気づかないふりをしていたけれど現実は正直だ。そこでエミコは決意した。


クロコダイルダンディーと砂糖断ちの予感

「よし、ダイエットしよう」

ただし、いきなり走ったり筋トレしたりするタイプではない。
まずは外に出る理由を作ろうと、金曜の夕方から通える英会話教室を予約した。

駅前のビルの5階。
ネット予約制で、週に通えるコマ数が決まっている。
エミコは金曜〜日曜の3日間で全部使い切るという、妙にストイックな計画を立てた。

(英語もできるようになって、痩せられたら最高じゃん)

そんな淡い期待を胸に、初日のレッスンへ。

教室では、フィリピン出身の先生がにこやかに迎えてくれた。
発音のコツも、文法の間違いも、優しく丁寧に教えてくれる。

「Today, let's talk about travel!」
(今日は旅行について話しましょう)

エミコは、先生の明るさに引っ張られて、つい調子よく話してしまう。

レッスンの終わりごろ、先生が聞いた。

「Where do you want to go for your next trip?」
(どこへ旅行に行きたいですか?)

エミコは一瞬迷ったが、口が勝手に動いた。

「I want to go to… the Australian desert!」
(オーストラリアの砂漠地帯に行きたいです!)

先生が目を丸くする。

「Desert? Why?」
(砂漠地帯?どうして?)

エミコは胸を張って答えた。

「Because… I feel like I might meet Crocodile Dundee there.」
(そう、クロコダイルダンディに会えるかもしれないから)

先生は吹き出した。

「Oh! You like adventure!」
(わ、冒険好きなのね!)

(いや、冒険というか、ただの映画の影響なんだけど)

でも、言ってみるとなんだかワクワクしてきた。

その帰り道。
駅前のコンビニで、エミコはついスイーツコーナーに吸い寄せられた。

プリン、シュークリーム、チョコレート。
どれも魅力的に輝いている。

(でも、ダイエットするんだよね、私、明日からにしようか?)

エミコは深呼吸して、スイーツ棚からそっと離れた。

その瞬間、心の中で小さな声がした。

(砂糖断ち、してみる?)

クロコダイルダンディーに会うためには、まずは砂糖と戦わなければならないらしい。

こうして、エミコの砂糖断ちダイエット物語が静かに始まった。

砂糖断ちってそんなに世知辛いの?

砂糖断ちという言葉を、エミコが初めて聞いたのは会社のランチタイムだった。

同僚のハナは、帰国子女で英語がペラペラ。
オーストラリアで大学生活を送っていたらしく、向こうの意識高い女子事情にやたら詳しい。

「エミコ、砂糖断ちって知ってる?」
「え、コーヒーに砂糖入れないやつ?」
「ちがうちがう、それはただの砂糖少なめよ」

ハナはサラダをつつきながら、さらっと言った。

「オーストラリアの女子でね、砂糖断ちダイエットが流行ってたの。砂糖を調味料として使ってる料理まで全部避けるのよ」
「えっ、全部?」
「そう。カレーのルーとか、めっちゃ砂糖入ってるからね」

エミコは箸を止めた。

(カレーって?砂糖の味しないのに)

ハナは続ける。

「肉じゃがもアウト。酢飯もアウト。甘い卵焼きもアウト」
「えっ、じゃあ何食べるの?」
「素材の味を楽しむのよ」
「素材の味って?そんなストイックな」

ハナは肩をすくめた。

「でもね、砂糖断ちすると、体が軽くなるってみんな言ってたよ。肌もきれいになるし、むくみも減るし」
「へぇ」

エミコの心に、ちょっとだけ火がついた。

(砂糖断ち。そんなに効果あるのかな)

その日の夜。
エミコはスマホ片手に「砂糖断ち ダイエット 方法」と検索した。

出てくる出てくる。

砂糖断ちの体験談
  • 砂糖断ち1週間で肌が明るくなった
  • むくみが消えて足が細くなった
  • 甘いものへの依存がなくなった

(え、そんなに?)

しかし同時に、厳しい現実も書かれていた。

砂糖断ちの現実
  • 調味料の裏ラベルを全部チェック
  • 外食はほぼアウト
  • 砂糖だけでなく糖質にも注意
  • 最初の3日が地獄

(地獄?)

エミコは思わずスマホを置いた。

(でも、クロコダイルダンディーに会うためには、いや、会わないけど)

なんとなく、砂糖断ちの世界が気になって仕方ない。

(ちょっとだけやってみようかな)

エミコの砂糖断ちチャレンジは、こうして静かに幕を開けた。

形から入る女、壺を買う

エミコは昔から行動する前に形から入るタイプだった。

ダイエットを始めるときは、まずウェアを買う。
英会話を始めるときは、まずノートを3冊そろえる。
そして今回、砂糖断ち。

(まずは環境づくりよね)

そうつぶやきながら、エミコは冷蔵庫と戸棚を開けた。

プリン、チョコ、アイス、クッキー。
「多いな」
自分でも引くほど甘いものが出てくる。

(これ全部、私が食べてたのか)

とりあえず、会社に持っていって同僚に配ることにした。
砂糖断ち宣言はまだしていないので、ただの太っ腹な差し入れに見える。

次にやるべきは、作り置き。

砂糖断ちの世界では、お腹が空いたときに甘いものに走らない仕組みが大事らしい。

(よし、土曜日は料理デーにしよう)

独り暮らしのキッチンで、エミコは腕まくりをした。

まずはサラダ。
しかし、ドレッシングの裏ラベルを見ると、砂糖の文字が。

「え、ドレッシングにも砂糖って入ってるの?」

軽くショックを受けつつ、ネット検索に頼る。

「砂糖断ち 作り置き レシピ」

出てきたのは、意外と普通の料理たちだった。

・チキンのトマト煮込み
・ビーフシチュー(砂糖なしバージョン)
・鶏むね肉の蒸し鶏
・かぼちゃの甘辛焼き(砂糖なしでもいけるらしい)
・ほうれん草のごま和え
・本場イタリアン(砂糖を使わないことが多い)

グーグル検索より

(あれ、思ったより食べられるもの多いかも)

でも、エミコの心を一番つかんだのは

「あ、焼き芋。好きかも」

焼き芋は砂糖を使わない。
それなのに甘い。
まさに砂糖断ちの救世主。

(でも、自分で焼き芋なんて作れないし)

そう思った瞬間、エミコの指は勝手に動いていた。

「焼き芋 壺 おすすめ」

そして、気づけばAmazonのカートに焼き芋専用の壺が入っていた。

「買っちゃおう」

少し高かったけど、形から入るエミコに迷いはない。

(これで私も砂糖断ち女子!)

壺が届くのは数日後。
エミコはワクワクしながら、砂糖断ち生活の準備を進めていった。

禁断症状と、月曜の奇跡

砂糖断ちを始めて3日目。
エミコは、なんだか落ち着かなかった。

(あれ?なんかイライラする)

会社のデスクで書類をまとめながら、ふと頭がズキッとした。

(これ前にもあったな。チョコ断ちしたときかな、ケーキ断ちしたときも)

そのときはただの気分の問題だと思っていた。
でも、今回砂糖断ちについて調べてみて、ようやく気づいた。

(これ、砂糖の禁断症状だったのか)

ネットには、砂糖断ちの離脱症状として

砂糖断ちの離脱症状
  • イライラ
  • 頭痛
  • 集中力低下
  • 疲労感
  • 甘いものへの渇望

などが並んでいた。

(まさに今の私じゃん)

エミコは、机の引き出しに入れていた非常用チョコをそっと閉じた。
(いや、非常用じゃなくて常用だったけど)

しかし、翌日の火曜日。
エミコは驚いた。

朝起きた瞬間、体が軽い。
頭もスッキリしている。

(え、なにこれ)

会社に行くと、事務作業がいつもよりサクサク進む。
書類整理も、メール返信も、なぜかテンポがいい。

同僚のハナが言った。

「エミコ、今日めっちゃ仕事早くない?」
「え、そう?」
「なんか、キレがあるよ」

(キレ!)

エミコは心の中でガッツポーズした。

(これが砂糖断ちの威力?)

帰宅しても、いつも感じていた足のだるさがない。
階段を上がるときも、軽い。
むくみも減っている気がする。

(すごい。砂糖断ちって本当に効果あるんだ)

その夜、エミコは冷蔵庫を開けて、作り置きの蒸し鶏をつまみながら思った。

(この調子なら夏までに痩せられるかも)

そして、ふと視界の端にAmazonから届いた大きな箱が映った。

そう、焼き芋の壺だ。

(これは、また後で開けよう)

エミコはそっと箱を閉じた。

伏線はまだ温めておく。

果物とお土産と奇跡の3キロ

砂糖断ちを始めてしばらく経ったころ。
エミコはふと鏡を見て、あることに気づいた。

(あれ?最近、吹き出物できてない)

エミコはきれい系女子を自負していたので、普段から肌トラブルは人に言わない。
意識高い系のプライドがあるからだ。

でも実際は、時々ぽつんとできる吹き出物をファンデーションで必死に隠していた。
それが、ここ最近は必要なくなっていた。

(え?これも砂糖断ちの効果?)

肌が落ち着いてくると、気持ちまで軽くなる。

ただし、困ったこともあった。

果物を食べる量が、爆増したのだ。

びわ、いちじく。
初夏のうちに、エミコは旬の高級フルーツを惜しげもなく買っていた。

(高い。でも美味しい。でも高い。)

財布と心が同時に揺れる。

何もないときはバナナ。
暑くなるとスイカやメロンが店頭に並ぶが、そう簡単には手が出ない。

(メロンって、なんであんなに高級なの)

冷凍ベリーは常に冷凍庫にストック。
ピーナッツやアーモンドはスナック代わり。

(これなら罪悪感ゼロ!)

もうひとつ困ったのは、会社のお土産。

出張帰りの同僚が、箱入りのお菓子を配ってくれる。

「エミコちゃんもどうぞ」
「わぁ。ありがとう」

もらいたい。
でも食べられない。

(つらい。でも食べない。でもつらい)

机の上に置かれたお菓子を見つめながら、エミコは心の中で葛藤していた。

(砂糖断ちって、意外と精神力いるな)

それでも、砂糖断ちの良いところはお腹が空かないことだった。

食事で制限しているのは砂糖だけ。
量は普通に食べているのに、なぜか食欲が落ち着いている。

(あれ?もしかして、食べる量減ってる?)

そして気づけば、体重があっという間に3キロ減っていた。

(えっ?3キロってすごくない?)

鏡の前で横向きになってみる。
なんとなく、ウエストがすっきりしている気がする。

(砂糖断ち。やるじゃん)

エミコは、冷蔵庫の中の果物を見ながら小さくガッツポーズした。

ウルルの夕陽と壺の焼き芋

砂糖断ちを始めて数か月。
エミコは、もうすっかり砂糖なしの生活が当たり前になっていた。

肌はつるんと整い、体は軽く、仕事もはかどる。
そして、体重はいつのまにか3キロ以上落ちていた。

(このまま一生続けられるかも)

そう思ったとき、ふと胸の奥に小さな灯がともった。

(あれ?私、なんで砂糖断ちを始めたんだっけ?)

初心を思い出す。

そうだ。
オーストラリアに行きたかったのだ。
クロコダイルダンディーを探しに。

(よし、行こう)

エミコは2年分の有給をすべて夏休みに投入した。
本当はノーザンテリトリーのアウトバックを10日間かけて巡りたかったが、予算と日程の都合で断念。

それでも、ウルル(エアーズロック)なら行ける。

(ウルルの夕陽。絶対きれいだろうな)

そして迎えた出発の日。
エミコは空港のセキュリティで、ふとスーツケースの中にあるものが入っていることに気づいた。

焼き芋の壺。

(あっ、入れたんだった)

砂糖断ちの救世主として買ったものの、忙しさにかまけて一度も使っていなかった。
でも、旅行前夜に急に思い立って、
「旅先で焼き芋焼けたら最高じゃん」
と、勢いで詰め込んだのだった。

(まあ、壺って言っても小型だし大丈夫よね)

ウルルに到着したエミコは、赤い大地と青い空に圧倒された。
夕陽が岩肌をオレンジ色に染める瞬間、胸がじんわり熱くなる。

(来てよかった)

ツアーガイドが言った。

「この時間帯は、みんな静かに夕陽を見つめるんですよ。心が洗われるって」

エミコも静かに目を閉じた。

そのとき、背後からツアー仲間の女性が声をかけてきた。

「ねえ、あなたのバッグ。なんか、壺みたいなの見えてるけど?」

エミコはハッとした。

(やばい、壺!)

「えっと。これは、芋の、壺で」
「芋!? YAKIIMO?オーストラリアで!?」

ツアー仲間が笑い出し、ガイドさんまで興味津々。

「焼き芋、作れるんですか?」
「え、あ、はい、いえ、たぶん」

気づけば、ウルルのふもとで説明書を見ながらの焼き芋実演会が始まっていた。

壺にサツマイモ(※現地のスーパーマーケットではKumara:クマラといえば買えます)を入れ、ガイドさんが用意してくれた簡易コンロで温める。

そんな想定で準備していると、意外な助っ人が現れた。なんと、焼き芋の移動販売をしている人がツアー参加者の中にいたのだ。

その方は、埼玉県から参加された40代の女性だった。「ホントは仕込みが必要なんだけど、イチから研究してきたから。甘くできるかはわからないけど」と、話しつつ手伝ってくれた。

しばらくすると、ほわっと甘い香りが漂った。ひと口ずつだったけど、みんなで味わう。

「おいしい!」
「砂糖使ってないのに甘い!」
「これ、ヘルシーじゃない?」

ツアー仲間が歓声を上げる。

エミコは照れながらも、胸がいっぱいになった。

(砂糖断ちしてよかった。壺、持ってきてよかった)

夕陽に照らされたウルルを見上げながら、エミコは思った。

(クロコダイルダンディーには会えなかったけど、私、ちゃんと冒険してるじゃん)

砂糖断ちがくれた軽やかな体と、ちょっとした勇気。
そして、焼き芋の壺がつないだ小さな出会い。

エミコの旅は、まだまだ続く。

― 完 ―

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