ファミリータイム

ファミリータイム
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アミ(47)は、外から見ると幸せそのものに見える。
長身で気が利く旦那・コースケと再婚し、夫婦で手話ダンスのサークルにも通っている。
でも、アミの毎日は、ただの幸せだけじゃない。
家族のために、そっと気を配り続ける見えない努力でできている。

姉ミユのこと

ミユ(51)は偏頭痛とめまいが持病だ。
高校卒業後に県立病院でSPDの仕事についたが、体調不良で辞めざるを得なかった。
いまは就労継続支援B型作業所トテチテタで週2日、午後だけ働いている。

作業内容は、自動車メーカーの作業着の繕いもの。
1日に30着のズボンを直すのがやっと。
でも、ミユはその仕事を誇りに思っている。

トテチテタでは手話が共通言語だ。
月1回の「手話べり会」で、ミユは少しずつ仲間ができてきた。
そこで出会った女性に言われた。
「手話サークルに入ると、もっと勉強できるよ」

ミユは嬉しいけれど、ひとりで行くのは少し怖い。
そこで妹のアミに相談した。

するとアミは、
「私も手話、もっと勉強したかったんよ。一緒に行こう」
と即答した。

実はアミ、すでに夫婦で手話ダンスのサークルに入っていたのだ。

水曜日の夕方は3人の時間

こうして、毎週水曜日の夕方、
コースケ・アミ・ミユの3人で手話サークルへ通うことになった。

コースケが車を運転し、助手席のアミがミユを迎えに行く。
そのまま海沿いのマンションから、3人で向かう。

アミは家庭教師をしている。
中学生と高校生の女子を教えているので、夕方は本来とても忙しい。
それでも水曜日だけは、手話サークルを優先する。

「ミユが安心して通えるなら、それでいいんよ」
アミはそう思っている。

アミの気づかれないサポート

アミはミユに気を使っている。
でも、気を使っていると悟られないようにしている。

たとえば
ミユがトテチテタで働き始めて5年目。
仕事にも慣れてきた頃、念願のスマホを買いに行った。

ショップで一番いい機種を選んだのはアミ。
設定を全部やったのもアミ。
ミユはLINEが嫌いなので、メールだけ使えるようにした。

「これで十分よ。ミユらしく使えばいいんよ」
アミはそう言った。

手話ダンスの発表会にもときどき誘う。
ショッピングにもよく行く。
おしゃれ着を試着しては、
「その色いいね」「こっちのほうが似合うよ」
と、ふたりで3時間もああだこうだ言い合う。

疲れたらスタバで休憩。
「今日はカフェラテにしよっか」
そんな時間が、ふたりの宝物だ。

ミユはTシャツプリントというお金のかかる趣味を持っている。
アミはあまりのめり込みすぎないよう、
「すごいね」
と控えめに褒める。
褒めすぎると、ミユは本当に全財産をTシャツプリントに使いかねないからだ。

アミの夢と、家族への想い

アミの夢は、いつか学習塾を持つこと。
そのために勉強も続けている。

「いつか姉ちゃんや両親に恩返ししたいんよ」
アミはそう思っている。

母はASOの既往があり、腎臓も弱い。
父は退職したが、昔はスーパーの精肉店で働いていた。
いまは海沿いのマンションで、父が母とミユの食事を作っている。

アミは家族のことを思うと、胸がぎゅっとなる。
でも、顔には出さない。
ただ、そっと支えるだけ。

手話サークルの帰り道

水曜日の夜。
手話サークルの帰り道、車の中はいつも笑い声でいっぱいだ。

ミユが言う。
「今日のありがとうの手話、ちょっと難しかったね」

コースケが笑う。
「ミユさん、上達してますよ。僕より早いです」

コースケはバックミラー越しにミユを見る。
ミユの表情は、どこか誇らしげだ。

アミは思う。
幸せって、外見じゃなくて、こういう瞬間の積み重ねなんだ。

車はゆっくりと海沿いのマンションへ向かう。
窓の外には、瀬戸内の夜風が流れていた。

コースケ

コースケは、背が高いせいで、よく頼りがいのある人に見られる。
でも本人は、そんなに立派な人間だとは思っていない。
ただ、アミとミユと一緒にいるときだけは、
「自分はこの家族の役に立てている」
そんな気がして、胸の奥がじんわり温かくなる。

水曜日の夕方は、少しだけ特別だ

仕事を終えてマンションの前で待っていると、
アミとミユがマンションから降りてくるのが見える。

助手席にはアミ。
後部座席にミユ。
この並びが、なんだか好きだ。

アミが助手席から笑う。
「今日も行くよ、手話サークル」

ミユは控えめに手を振る。
「よろしくお願いします」
そして後部座席に座る。

コースケは思う。
このよろしくの一言に、どれだけの勇気が詰まっているんだろう。

ミユは偏頭痛とめまいがある。
体調が悪い日は、表情が少し曇る。
でも水曜日だけは、ほんの少し明るい。

手話べり会で出会った女性に勧められた手話サークル。
ひとりで行くのは怖い。
だからアミが一緒に行く。
そして、アミが「コースケも一緒に行こうよ」と言った。

その瞬間、コースケは胸が熱くなった。
自分も、この家族の一員として数えてもらえたんだ。

手話サークルでのミユは、ちょっと誇らしげだ

手話サークルに着くと、ミユは少し緊張した顔で席につく。
でも、手話の練習が始まると、表情がふっと柔らかくなる。

講師が言う。
「今日はありがとうの手話を練習します」

ミユは指先をゆっくり動かす。
その動きは慎重で、でも確実に上達している。

コースケは横目でそっと見る。
ミユさん、すごいな。
体調が悪くても、こうやって前に進んでる。

アミは隣でミユの手の形を確認しながら、
「いいよ、合ってるよ」
と優しく声をかける。

その姿を見るたび、コースケは思う。
アミは本当に、家族思いだ。

気を使っていることを悟られないように、
自然にミユを支えている。
その自然さが、コースケにはとても美しく見える。

帰り道の車は、いつも家族の音がする

手話サークルの帰り道。
車の中は、いつも少しだけ賑やかだ。

ミユが言う。
「今日のありがとう、難しかったね」

アミが笑う。
「でも、ミユが一番上手だったよ」

コースケも言う。
「本当に。僕より早かったです」

ミユは照れながら、窓の外の海を見つめる。
その横顔は、どこか誇らしげだ。

コースケは思う。
この家族の中で、僕は何ができているだろう。

運転はコースケ。でも、
サポートはアミ。
気遣いもアミ。

自分はただ隣に座っているだけだ。

でも、ミユがふとコースケに向かって言った。
「コースケさんが一緒だと、安心するよ」

その一言で、胸がぎゅっとなる。
ああ、自分にも役割があるんだ。

家族の中で、自分がいていい場所があるんだ。

コースケは気づく。水曜日は、家族になれる日だ

家に着くと、アミが言う。
「来週も行こうね」

ミユがうなずく。
「うん、楽しみ」

コースケは心の中でそっとつぶやく。
水曜日は、僕が家族になれる日だ。

アミの優しさ。
ミユの努力。
そして、自分の小さな役割。

それらが重なって、
水曜日の夕方は、いつも少しだけ特別になる。

瀬戸内の夜風が車の窓を通り抜ける。
その風の中で、コースケは静かに微笑んだ。

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