プリン🍮⑤

プリン🍮⑤ 全記事
プリン🍮⑤

その日、出勤すると、店長サエコが大声で言った。「アイコちゃん!今日のお昼、みんなで食べに行こうよ!」ユウトも言った。「アイコさん、最近表情が柔らかくなりましたね」マダム・フミエは相変わらず毎日来て、買わずに名言だけ置いていく。「あなた、もうひとりじゃないわよ。ここに来れば、あなたを笑わせる人がいるもの」

新しい家族

(そうか。 この人たち、もう家族なんだ)

アイコは気づいた。形じゃない家族が、いつの間にか自分の周りにできていた。ある日、サエコが言った。

「アイコちゃん、アクセサリーのブランド化、本気で考えない?」

「えっ、私がブランドを?」

「そうよ!名前はアイコのプリン工房!」

「だからプリン関係ないですよね?」

ユウトが冷静に言った。

「プリンはやめた方がいいと思います」

マダム・フミエは言った。

「アイコの灯(あかり)なんてどう?あなたの作品、優しい光があるもの」

アイコは胸が温かくなった。(私、やってみたいかも)ヒサシの声が聞こえる気がした。

『やれやれ!失敗したら俺のせいにしろ!』

「もう、天国からまで無責任なんだから」

でも、笑ってしまう。その夜、アイコはベランダに出て、空を見上げた。

「ヒサシ。私ね。アクセサリーのブランド、始めてみようと思う」

風がふわっと吹いた。まるでヒサシが『おお、やるじゃん!』と言っているようだった。

「あなたがいなくても、私はちゃんと生きていくよ。でもね。あなたがいたから、生きていけるんだよ」

アイコは涙を拭いて、そっと微笑んだ。

翌朝、アイコは冷蔵庫を開けた。プリンが2つ。

「非常用は今日も必要だね」

でも、意味は変わっていた。悲しみを埋めるためではなく、今日も笑って生きるため。アイコはプリンを1つ取り出し、もう1つはそっと残した。

「ヒサシの分はここに置いておくね」

それは、ヒサシと共に生きるというアイコなりの新しい家族の形だった。

雑貨店の仲間たち

マダム・フミエ。新しく始まるアクセサリーブランド。そして、天国のヒサシ。アイコの人生は、静かに、でも確かに前へ進んでいく。ヒサシがいなくても、ヒサシと共に。笑って、泣いて、また笑って。アイコは今日も、新しい家族と共に生きていく。

雑貨店「コトリ堂」の休憩室。アイコのブランド名を決める会議が開かれた。店長サエコは、ホワイトボードに勢いよく書いた。

「候補その1! アイコのプリン工房!」

「だからプリン関係ないですよね」

ユウトが冷静に言う。

「プリンはやめた方がいいと思います」

マダム・フミエは優雅に紅茶を飲みながら言った。

「アイコの灯(あかり)がいいわ。あなたの作品、優しい光があるもの」

サエコが言った。

「じゃあ、灯プリンはどう?」

「だからプリンを混ぜないで!」

会議はカオスだった。でも、アイコは笑っていた。(ヒサシがいたら絶対ツッコんでる)

その夜、アイコは家で、ヒサシの手紙を読み返していた。『アイコは強いから大丈夫。でも、強い人ほど無理するから心配だ。だから、ちゃんと誰かに頼れ。俺の代わりにツッコんでくれる人、きっと現れる。』

(頼る、か)

あの一通。

『アイコが笑ってたら、俺はそれだけで幸せだ。』

(笑顔、か)

そして最後の一文。

『プリン食べろ』

「プリンは関係ないでしょ!」

でも、アイコは気づいた。

(ヒサシが残した言葉って、全部私を笑わせるためだったな)

その瞬間、ブランド名がふっと浮かんだ。

翌日、アイコは店に行って言った。

「ブランド名、決めました」

サエコとユウトとフミエが身を乗り出す。

「なんて名前?」

「プリン入ってる?」

「灯プリン?」

アイコは笑って言った。

「AICO(アイコ)です」

サエコが目を丸くした。

「自分の名前をブランドに!なんかプロっぽい!」

ユウトがうなずく。

「シンプルで覚えやすいですね」

フミエは微笑んだ。

「あなたらしいわ。あなたの人生そのものが作品になるのよ」

アイコは胸がじんわり温かくなった。(ヒサシ、見てる?私、自分の名前で勝負するよ)

ロゴを作るため、ユウトがパソコンを開いた。

「こんな感じでどうですか?」

画面には、シンプルで可愛いAICOの文字。サエコが言った。

「いいじゃない!でも、プリンのイラスト入れようよ!」

「入れません!」

フミエが言った。

「じゃあ、灯りのマークを」

「それはアリです!」

結果。AICOのOが小さな灯りの形になった。

(ヒサシ、どう?プリンじゃなくて灯りにしたよ)

風がふわっと吹いた気がした。アイコはビーズを並べ、ひとつひとつ丁寧にアクセサリーを作った。

  • ヒサシが好きだった青
  • アイコが好きな白
  • フミエが勧めた金色
  • サエコが勝手に混ぜたピンク(意外と可愛い)

完成したアクセサリーを見て、アイコは思わずつぶやいた。

「これ、私の人生みたい」

少し泣いて、少し笑って、いろんな色が混ざって、でもちゃんとひとつの形になっている。店頭に並べた瞬間、お客さんが足を止めた。

「これ可愛い!」「優しい色合いね」「なんかあったかい」

サエコが言った。

「アイコちゃん、売れてるよ!これ、絶対人気ブランドになるって!」

ユウトも言った。

「アイコさん、すごいです」

フミエは言った。

「あなたの人生が、誰かの胸に灯りをともすのよ」

アイコは胸がいっぱいになった。(ヒサシ、私、ちゃんと前に進めてるよ)

その夜、アイコは冷蔵庫を開けてプリンをひとつ取り出した。「ブランド立ち上げ記念に、あなたの分も食べていいよね?」

プリンは甘くて、少し涙の味がした。ブランドAICOは、アイコの新しい人生の象徴になった。ヒサシと共に生きた日々も、ヒサシを失った悲しみも、全部が灯りになってアイコの未来を照らしている。アイコは今日も、新しい家族と、新しい夢と、そして天国のヒサシと一緒に生きていく。

初めてのイベント

雑貨店「コトリ堂」のバックヤード。店長サエコが、いつものテンションで叫んだ。

「アイコちゃん!AICOブランド、イベント出店決まったよ!」

「えっ?イベントって、あの、人がいっぱい来るやつですか?」

「そう!広島駅前の手作りマルシェ!来場者数、去年は3万人!」

「3万人?」

アイコは一瞬、魂が抜けた。ユウトが冷静に言った。

「大丈夫ですよ。最初のイベントは誰でも緊張します」

マダム・フミエは優雅に言った。

「あなたなら大丈夫よ。笑顔でいれば、売れなくても許されるわ」

「売れない前提、なんですか?」

イベント準備は、なぜか文化祭のようなノリになった。サエコは言う。

「ポスター作るよ!AICOのロゴをドーンと!」

ユウトは言う。

「在庫管理は僕がやります。アイコさんは制作に集中してください」

フミエは言う。

「差し入れにプリン持ってくるわね」

「プリンはありがたいです」

アイコは思った。(この店、やっぱり家族みたい)

イベント当日。AICOのブースは可愛く飾られ、アイコは緊張で手が震えていた。

「いらっしゃいませ!」

しかし、開始5分で事件が起きた。風が吹いて、ポスターが飛んだ。サエコが叫ぶ。

「アイコちゃんのロゴが逃げたー!」

ユウトが走る。

「僕が追いかけます!」

フミエは言う。

「私は見守るわ」

(見守るだけ?)

結局、ユウトがポスターを捕獲した。

「確保しました」

「ありがとうございます!」

トラブル続きだったが、AICOのアクセサリーは予想以上に売れた。

「この色合い、優しいですね」「なんか心が落ち着く」「誰かを思って作った感じがする」

アイコは胸が熱くなった。(ヒサシ、見てる?私、ちゃんとやれてるよ)サエコは大喜び。

「アイコちゃん!売上、うちの店の中で1位よ!」

ユウトも言った。

「アイコさん、すごいです」

フミエは言った。

「あなたの作品、人の心に灯りをともすのよ」

イベントの終盤、ひとりの女性がブースに来た。

「こんにちは。あなたがAICOの作家さんですか?」

「はい、そうです」

「実は、うちの雑貨店でも扱わせてもらえないかと思って」

「えっ!」

女性は、広島市内で人気のセレクトショップのオーナーだった。

「あなたの作品、優しさがあって、すごく惹かれました。ぜひお話ししたいです」

アイコは胸が震えた。(ヒサシ、私、あなたがいなくても前に進めてるよ)

イベントが終わり、荷物を片付けて帰る途中。アイコは空を見上げて言った。

「ヒサシ。今日ね、あなたがいたら絶対ツッコんでたよ。ポスター飛んだし、サエコさん暴走するし、 フミエさんは見守るだけだし」

風がふわっと吹いた。まるでヒサシが『まぁ、なんとかなるって』と言っているようだった。アイコは微笑んだ。

「うん。なんとかなったよ。あなたが残してくれた灯りのおかげでね」

イベント出店は大成功。新しい出会いもあり、AICOブランドは次のステージへ進む。アイコは今日も、ヒサシと共に、新しい家族と共に、未来へ歩き続ける。

灯りの奥

AICOブランドのイベントが終わって数日。毎日店に来ていたマダム・フミエが、ぱったり姿を見せなくなった。サエコが言った。

「フミエさん、どうしたんだろうねぇ。毎日来て、毎日買わずに帰ってたのに」

ユウトも心配そう。

「体調が悪いんでしょうか」

アイコは胸がざわついた。(フミエさん、大丈夫かな)

サエコが言った。

「アイコちゃん、行ってみようよ。フミエさんの家、知ってるから!」

「えっ、知ってるんですか?」

「だって、あの人、うちの常連歴10年だよ?」

(10年?私より店に馴染んでる)

こうして、アイコ・サエコ・ユウトの3人でフミエの家を訪ねることになった。玄関を開けると、フミエはソファに座っていた。

「まぁ。来てくれたのね」

少し痩せたように見えた。アイコは駆け寄った。

「フミエさん、大丈夫ですか?」

「ええ。ちょっと疲れただけよ。歳を取るとね、心も体も休ませる日が必要なの」

フミエは微笑んだが、その笑顔はどこか寂しげだった。ふと、アイコは棚に置かれた写真に目を留めた。若い頃のフミエと、優しそうな男性が並んで写っている。

「フミエさん、この方は?」

フミエは静かに答えた。

「私の夫よ。もうずいぶん前に亡くなったけれどね」

アイコの胸がきゅっとなった。(私と同じだ)

フミエは続けた。

「あなたを見ていると、昔の私を思い出すのよ」

フミエはゆっくり話し始めた。

「夫が亡くなった時、私はね。世界が全部止まったように感じたの」

「・・・」

「でも、ある日気づいたの。止まっているのは世界じゃなくて、私だって」

アイコは息をのんだ。

「それから私は、毎日外に出るようにした。誰かと話すようにした。笑う練習もしたわ」

「笑う練習?」

「そうよ。最初はぎこちなかったけれど、だんだん本物になっていった」

フミエはアイコの手をそっと握った。

「あなたが前に進む姿を見て、昔の私を思い出したの。だから、応援したかったのよ」

フミエは少し照れたように笑った。

「それにね、あなたのアクセサリー、夫が好きだった色に似ていたのよ」

「えっ」

「優しい青と白。あの人がよく着ていたシャツの色なの」

アイコは胸が熱くなった。(ヒサシの好きな色でもある)

フミエは続けた。

「あなたの作品を見ていると、あの人がそばにいるような気がしたの。だから、毎日店に通っていたのよ」

アイコの目に涙が浮かんだ。フミエは優しく言った。

「アイコさん。亡くした人はね、思い出すたびに生き返るのよ」

「・・・」

「あなたが笑えば、ヒサシさんも笑う。あなたが前に進めば、ヒサシさんも一緒に進むの」

アイコは涙をこぼしながら言った。

「フミエさん、私、もっと頑張ります。もっと笑って、もっと作って、もっと前に進みます」

フミエは微笑んだ。

「ええ。それが、あなたの灯りになるわ」

フミエの家を出た帰り道。夕焼けが優しく街を染めていた。アイコは空に向かって言った。

「ヒサシ。あなたと同じように、誰かを照らせる人になりたいよ」

風がふわっと吹いた。まるでヒサシが『お前ならできるって』と言っているようだった。アイコは微笑んだ。AICOブランドは、アイコの人生そのもの。フミエの言葉は、アイコの未来を照らす灯り。ヒサシの愛は、今もアイコの中で生き続けている。そして、アイコは今日も、新しい家族と、新しい夢と、天国のヒサシと共に生きていく。

灯りは消えない。 愛も消えない。

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