
「イケメンは許さない」なんて言うくせに、私が笑っていれば満足なんだから。ほんと、最後までズルい人。でも、そのズルさに今日も救われている。ヒサシの声は、もう聞こえない。でも、あの日記を閉じるたび、私は少しだけ強くなれる。今日もまた、笑って生きていく。
6月30日
仕事から帰ったとき、
ポストを開けたら、ふと胸がざわついた。
封筒なんて入っていないのに、
なぜか――
ヒサシから手紙が届いている気がした のだ。
あの、ちょっと丸くて、
5歳児が頑張って書いたみたいな字で。
私は深呼吸して、
心の中でそっと封を開けた。
アイコへ
これを読んでるってことは、
俺はもうそっちにいないんだな。
まずは謝る。ごめん。
でも、俺は元気だ。
天国はWi-Fiが強い。
「Wi-Fiの強さ、どうでもいいよ」
涙が出るのに、笑ってしまった。
続けて、こんな声が聞こえた。
アイコ、泣いてるか?
泣いてたらプリン食べろ。
泣いてなくてもプリン食べろ。
つまりプリン食べろ。
「結局プリンなのね。」
7月4日
また、夢をみた。
「アイコは強いから大丈夫。
でも、強い人ほど無理するから心配だ。
だから、ちゃんと誰かに頼れ。
俺の代わりにツッコんでくれる人、
きっと現れる。
(ただしイケメンは許さない)」
天国から嫉妬しないでよ。
胸がじんわり温かくなる。
俺のことは忘れなくていい。
忘れようとしたら怒る。
でも、前に進むのは大賛成だ。
アイコが笑ってたら、
俺はそれだけで幸せだ。
ヒサシらしいな。
7月15日
追伸、
冷蔵庫の奥にプリン入ってる。
非常用だ。
食べろ。
賞味期限はわからん。ごめん。
そこ、大事でしょ!
実際に冷蔵庫を開けたら、
本当にプリンが1つあった。
賞味期限はギリギリ。
ほんとに、最後までポンコツなんだから
甘くて、
ちょっと涙の味がした。
7月29日
朝。また、ヒサシの声がした。
天国のご飯は薄味だ。
塩持ってきてくれ。
冗談だ。
来るなよ。
まだ来るな。
長生きしろ。
もう、なんなのよ。
涙と笑いが同時にこぼれた。
8月19日
そろそろ俺の手紙も尽きる。
書き溜めるの大変だったんだぞ。
褒めてくれ。
褒めるけど、なんでそんなに書いたのよ
最後に言いたいことがある。
家族って、血とか形じゃない。
一緒に笑ってくれる人がいれば、それで家族だ。
だから、アイコ。
新しい家族、作っていいからな。
俺は怒らない。
むしろ応援する。
ただしイケメンは許さない。
最後の一文いらないでしょ!
涙と笑いがまた同時にこぼれた。
8月15日
ヒサシの手紙なんて、
本当はどこにも届いていない。
全部、私が想像した言葉だ。
でも。
ヒサシなら、きっとこう言う。
そう思えるから、
私はまた前に進める。
うん。なんとかするよ。
あなたの声があるからね
ヒサシの手紙は、私の想像だ。
でも、あの人ならきっと、ああ言う。
だから私は、あの人の言葉を胸に、
新しい一歩を踏み出す。








